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「つまり、俺が東京駅で降りて誰かに助けを求めればいいってことか」
「まあな。けど、俺は正直お前が電車を降りればループは終わるんじゃないかと考えてる」
「また根拠がないな」
「そうか? 試してみてもいいが、少なくとも降りられるのはお前だけだ」
「でも今までに二回失敗してるんだろ」
「そう。佐田くんは二回とも帰ってきた」
あきが大きな瞳でじっと俺を見つめて言った。
彼女は十年前と比べて短かった髪が伸び顔立ちも年相応に大人びていた。服装も活発な少女だった頃からは想像できないような清楚なワンピースを着ている。しかしいつまでも耳に残る澄んだ声と、こちらを見つめる黒目がちの瞳はあの頃と何一つ変わっていない。
「事情は分かったよ。とりあえず、あきはその他人行儀な呼び方やめてくれないか。昔みたいに章吾でいいからさ」
俺がそう言うと唐突に大樹が吹き出した。
「なんだよ、変か?」
「いや。でもお前最初に会ったときからずっと同じこと言ってるからさ。よっぽど気になるんだなって」
「だってなんか水くさいだろ。お前だって、なんだよ“あきちゃん”って。俺たち昔はお互いに下の名前で呼び合ってたじゃん」
「気持ちは分からなくもないけど、やっぱりいきなりはちょっと難しいかな。私たち全員もうすっかり大人だしね。あ、呼ばれる分には全然気にしないけどさ」
あきはそう言って少しだけ笑顔を見せた。
張りつめた空気が一瞬緩み、何より二人が笑ってくれたことがこの上なく嬉しかった。
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