山手線

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 ほどなくしてホームに発車のメロディーが鳴り響いた。  俺は自動販売機の裏手に回ると、大樹の書いたメモをちぎってゴミ箱に捨てた。それからさっき降りた車両の二つ隣の車両に乗り込んだ。  駅員のアナウンスが流れる。ドアが閉まり電車が動き出す。スマートフォンで時刻を確認すると十二時五十七分だった。最初に東京駅を通過したのと同じ時刻だ。約一時間巻き戻っている。  十年前に戻ることはできない。三人のこの十年の変化を覆すこともできない。ならばいっそ回り続けようと思う。いつまでもいつまでもこの終点のない山手線のように。俺には目的地がないのだから。この電車に乗っている間はあの頃の三人でいられるのだから。  音の出ていないイヤフォンを耳に付けると、俺は二人のいる車両に向かって再びゆっくりと歩き出した。
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