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第十八話 夢ではない現実
カランカラン。
いらっしゃいませの声に手をあげるとこっちと呼ばれた。
女性がこっちを向いて手をあげた、その隣に座った。
「お疲れ、待った?」
「ううん、何にする?」
「そうだな、源治さん、レモン酒」
「はいよ」
「忙しかった?」
「今日は暇、明日は団体が入ってるし」
「船だろ、良かったよ、スフの団体は困るもん」
「はいお待たせ」
「サンキューです」
「お疲れさま」
「ご苦労様です」
チンといい音がした。
あれから源治さんはクラッシック曲をかけている、お客さんはこっちに帰って来てからずっと増えたと言っていた、それは俺たちみたいなのが使うようになったからだけどね。
そして彼は勉強して、お酒を造り始めた。店にはきれいな、果樹酒が並んでいる。それとサイタマ限定のビールがあり、これがまたうまいんだよね。
俺たちは少し早めに来る、そうしないとからかわれてかなわないからだ。
彼女を送って行き、俺はもう一仕事、父さんはタイミングのいいところでちゃんとしろよって言ってくれている、彼女の親のところへ行く準備は始めている。
コンビニのそばを通った、店の中はまだ客がいる。
なんだかそれを見て無性にうれしくなってスキップをしながら帰った。
入院中のスフを見て回る。
「どうだ、傷は、よし、良さそうだ、明日は散歩しような」
今日入ってきた子の様子を描いたカルテを見る。
「お、少し出たか、血が出て油を塗ったんだな、全部出るまで、頑張ろうな」
スフたちは、みんなリラックスして首を下げている。
自然界のや、普通に飼われているスフは、気が立っているというか、警戒して頭を下げて寝ることはめったにない、でも、俺は、かれらをリラックスさせるものを見つけ、内田先生にも許可を取ってあるんだ。
まあこれだけの数がいるからね、何かあったら怖いしね。
ン?今何頭いるかって?
二十三頭寝てるよ、いい子たちだろ?
家には明かりがまだついていた。
「ただいま」
「おかえり、おとなしく寝たか?」
「少し興奮しているけどそれほどじゃなかったよ」
「そうか」
「注文?」
「キノコの方な、シンワからだ」
父さんはパソコンに向かっていた。そのわきには手紙のようなものが積まれている。
「結構な量だね」
「祭りがあるらしい」
「お祭りがあるの?へー、こっちは朝市の方か、これは?」
干し椎茸の注文だ。
「ダンさんの妹さんが結婚するんだ、その祝いだ」
「ふーん、とうとうシオだけになったか」
「まだ若いんだ、まだいいさ、元気くんのところもおめでただそうだしな」
「へーこっちもお祝いだな、さて俺も寝る、早く寝ろよ」
「おう、夏樹明日から実習な」
「もうそんな時期か、弁当?」
「頼む」
「はーい、おやすみ」
夏樹は植物に関心があって、チイさんのところに入り浸っている。こっちからは遠いから、ダンさんのところに厄介になるのだ。またニコマートでのアルバイトが始まると、嫌そうな顔をしている物のどこか嬉しそう。
「ねえ、シノちゃんは?」
「まだ起きてたのか?帰ったよ」
「俺が行ったら、部屋使っていいからね」
「バーカ、心配するな」
「寝よ、おやすみ」
俺は、結婚はしなくてもいいと思っていた、それは父さんのことだ、体は多分平気だと思う。でも、やっぱり心配は付きまとう、一人の風呂。掃除なんかもしなくていいというのにしようとしてふらついているのを見ると手を出したくなってしまう。
だから、それをわかって家に入ってくれる子じゃないと、と思っていたんだ。
彼女、シノはナラ、それもサクの村から来た子だ。
兄弟もいて、冬にサクの兄弟なんかと一緒に招待してやったら、学校を気に入って、長老にそれを話したら、冬の間だけ学校をこっちでやるかなんて言っていた。案外、大人たちは教育熱心なのか、いいんじゃないかと言うことになって、前の長老の家のような建物ができると、他の島の子供たちは冬の間だけ、泊まり込みで勉強しに来るようになってしまった。
それでも子供たちは、ハヤブサが引っ張るそり、スキー、スノボーが楽しみなんだよな。
そんな中にいた一人だったんだ。兄弟も多い彼女は、サクの話を聞いて、勉強がしたいと温泉へ住み込みで勉強し始めたんだ。彼女は勉強熱心で、まあサクが、わからないことは俺に聞けなんて言ったもんだからちょくちょく来るようになった。
そんな彼女は、面倒見がいいし、やさしくて気が利く。
ある時、温泉に来た客が父さんを訪ねてきたんだ。タジタジの父さんに、通訳をしてくれて、立ちっぱなしの父さんに手を貸してすぐに座れることを自然にしてくれて、俺は彼女にひかれて行ったんだ。
俺が卒業して、夏樹は冬の間は学校には行かなくていいと思っていたのに、いいのか悪いのか、父さんが、新しくできた学校へ行けって言ったところからこうなったんだよな。
今じゃ少しずつだがほかの島の子供たちも学校へ来るようになり始め、一年中勉強ができる環境が整いつつあった。その先駆者がサクだったんだもんな。
そんなある日。
「え?嘘だろ?」
「そんなに驚くこと?向こうとは年の数え方が違うのかしら」
いや、いやそんなことはないと、年齢を聞いて驚いた、俺より三つも上だった、幼い顔は、サクより年下だと思っていたから。
やられた、俺は彼女にメロメロになったんだ。
月に一回奈良へ行く。薬や、情報交換をしにサクの村へ行く、今じゃ彼女もつれて行くようになって、俺は決めたんだ、結婚するなら彼女、だから、プロポーズはした。ご両親にもちゃんと話した。後は最後の結婚の儀式だけとなるんだ。
ハー、今からドキドキするよ。
人口は、最初の四人からしてみれば、爆発的に増えた、今じゃ千人近い人がいる。
来年には、島の中が整理されるんだ。
一つは郵便局ができる、そうなると、住所がいる、みんな苗字を持つことになるんだ。
もう一つは、いろんな店ができるそれは中心となる大宮が整備されたことによるものだ。
大きな商業施設が整理されたことと、奈良から多くの大人が来たことによるものだ。
床屋、服のリフォーム店、靴屋と言ってもわらや木、革で作ったものになるけどね、下駄はヒットしそうだ、わらじは俺たちも使っているからこっちは必需品てところだ。
それと一番は、
「はい我慢して―、はい終了、よくがんばったなー」
そう、歯医者、それと、すごいのが。
「はい、これでいいはずです」
「こりゃ、ふが、ふが」
「外れましたね、慣れるまで違和感がありますが、硬い食事もとれますからね」
そう、入れ歯を作れる人がいたんだ。
電気ってすごいよねー。雪乃さんや藤田さんのところには、ものすごい数のお弟子さんがいる。今じゃいろんな島に行って、太陽光パネルを探している。開発ができるまでにはまだまだだけどね。もちろんタービン式も稼働しているよ、ここは温泉地だからね、熱は使わなきゃ。こっちは王都から教えにきてくれる先生がいるんだ。
学校もタービン式、なんせ電気量が違うからね、太陽光の何千倍という電気が起こせるから雪乃さんは先生もやってるから覚えるのが大変だよ。でも彼女は、勉強が好きなんだろうな、目がキラキラしてるんだ。
おっきな施設、変電所ができたのも大きい。
電機はそのままじゃ容量が大きすぎて使えないんだってさ、それを小さくするのが変電所。電気関係の仕事は、もうあちこちから人が来はじめて大変なことになっているんだ。
祐も新も、お父さんの後は継がない、なんて言っていた。じゃあお母さんと聞いたらそっちも嫌なんだって。けど、結局お父さんの跡継ぎの道に入って行っている、内田病院の跡取りってところだ。
コンビニは三店舗もできる。
大宮、北の岬、それと、病院の隣にできることになったんだ。
それと大きなことがもう一つ、朝市がでかくなった。今じゃ有名になったサイタマの朝市は、本店を中心に四百メートルの道が三本あったんだけど手狭になってきちゃったんだ。観光客が増えたんだそこで、西側のもとの長老の屋敷跡、俺たちが通った学校ね、そこから西側に広がる海岸は、高い断崖絶壁で使い物にならなかったんだけど、津波で地形が変わって、大量の土砂が流れ着いて砂浜になったんだ、そこに大きな岸壁を作ったんだ。そしてそこから横に伸びるようにしたんだ。
もちろん中心には、本店があるわけで、ものすごい長いものができたんだ。
端から端まで行くのに車がいるかもしれない。
それでもすごい人、大盛況だ。
俺たちも、病院スタッフ二人を交代で残し、父さんの手伝いや、いろんな人たちの手伝いに行くのだ、そして手には五百ドルンの小遣いをもらって来るのだ。
さて俺も寝よう、この先なんてわからない、でも明日はきっと楽しいことが待っている。初めてここへ来たとき、まゆちゃんにそう言われてから、俺はずっと楽しくてしょうがない。
明日も楽しい日になる。
外は、温泉から流れるお湯の川が、心地いい子守唄を奏でていた。
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