第1章 西の大地、ナラ  第一話 届かなかった手紙

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第1章 西の大地、ナラ  第一話 届かなかった手紙

空が茜色に色づく時間帯、家々からはいいにおいと子供たちの声が外にまで聞こえてき始めました。 「紙はいらんかね、障子やふすまの穴をふさぐ紙はいらんかねー」 「紙屋さん、少し下さいな」 そこで客と世間話をする。 「そうかい、これ少しだけど足しにしておくれ」 「ありがとう存じます」 「目が見えないんだとよ、かわいそうに」 少しだけどと施しをいただく。 「ありがとうございました」 さて、店じまいをするか。 「おい、そこの紙屋」 「はいなんでしょう?」 よそ者の子供を探しているそうだ。 この匂い、こいつら。 「私は目が不自由でして、お力になれず申し訳ありません」 杖を差し出しました。 「めくらか、だが何か聞いたらすぐに長に知らせろ」 「はい、かしこまりました」 人買い、くそったれが! 背中に荷をしょい、杖をもって走って家に戻りました。 ハア、ハア、ハア 「逃げたぞ!」 「そっちだ!」 どっちへ行けばいい、くそ追手が来ているのに! まるで大昔、遊びに行ったアドベンチャーワールドの忍者屋敷みたい、明かりがない、真っ暗で、明るいと思って寄っていくけど、ほんのりとしかない明かり、電気がないの?ズデン!また転んだ。 あんまりにも暗すぎて転んでばっかりだ。 立ち上がりあたりを見た。涙ばっかり出てくるし、くそー! ぐっと体を引っ張られた。 「しっ、黙って」 長い髪が揺れ、口をふさがれ体を持っていかれた、後ろに下がった。 上を見ると男性、長い髪は白髪と黒髪が混ざったもの、ある程度歳の行った人。その人は着物を着ていた。 「行ったか?」 辺りをきょろきょろ見回した。 「いないと思う、あの?」 「逃げて来たのか?」 頷いた。 「一人か?」 「途中まで何人かいた」 「そうか、お前はこの先、生きたいか、それとも死にたいか」 「わかんない、だって、帰り方もわかんないもん」 その子は涙声だ。 「泣くな、泣けば奴が来る」 男の子は涙をぬぐった、それだけで彼は奴が何者なのかを知っている。 「くそっ、王宮は何をしてやがる、来い、行くぞ」 男の子は立ち止まった。 「奴隷として働きたいか、それが嫌ならついて来い」 男の子は手と腕で顔を拭きながら後ろをついてきた。 裸足で走る音がする。 その子は口笛を吹いた、気が付いたのか足音が止まって近づいてきた。 「隼人!」 「和也!よかったー」 たったったと走る音が複数聞こえる。これはわらじの音。 「しっ、追手が来た、そっちへ行く」 闇の中、男の後を必死で走ってついていく男の子の後姿が消えていった。 火山ができた大地震から三年、水上温泉から来た人たちの後、埼玉の近くに人や町が落ちて来たという報告はない。ただ他の島には数人の人が保護され、この埼玉に連れてこられていた。 この島は奇跡の島かもしれない、もとからいた人は近くの小島にいただけで、この島は無人島だった。だから新しく建国ができ、ここ独自の発展を遂げたのかもしれない。 さいたま歴15年 そして今日もまた内田病院には多くの患者が訪れていた。 いて―よ!と泣き叫ぶ大男はだらりとした左手を抑えていました。。 「はいはい痛て―よな、山本先生そっち押さえて」 「は、はい!」 「サクこっち引っ張るから骨を合わせてくれ、イクゾー」 「はい!」 「せーの!入れろ!」 腕を引っ張り、力でずれた関節を入れていきます、ギャーとものすごい患者の叫び声がします。ごりっと音を立てたのが聞こえました。 「いでー!」 「入りました!」 「終わり、終わり、よく我慢した。」 「死ぬよー」 「生きてる、生きてる、そっちで固定するから、動けるな」 「終わりっすか?」 と涙声の大人。 「まだだよ、これからはもっとつらーい日々が待ってるんだよー、ムク」 「先生言い過ぎ、そっちいけますか?包帯巻きます」 「枕用意して」 「はい、少し痛いですからね、薬塗りますね」 先生は席を立って処置室の方へ足を運んだ。 「サク先生は優しいな、内先生はもういいよ」 あっちへ行けというようなことをされ、先生は又自分の席に戻った。 「はい、はい、俺はやめとくよ、次の患者さん入れて」 「はい、次の方、ガンさんどうぞ」 お願いしますと患者さんが入ってきた、すると後ろから声がした。 「先生シンワから急患です」 「木村先生手が空いてたら頼む」 「はい、はいもういいよ、もうあの葉っぱは触らないようにね」 「うん、ありがとう」 バイバイ、さて、患者だ。 そして表では。 「春、どうだ?」 俺は今スフの口の中に頭を突っ込んでいる。 「リア、足引っ張ってー」 足をバタバタ。 「おっちゃんも手伝ってくれ」 「お、おう」 「引っ張りますよ!」 「おねがーい!」 せーの! スポンという音とともにべちゃッと大きな塊が滑り落ちた。 「ゲッこんなのが挟まってたのか?」 俺はスフの口にかませていたでっかいポリバケツを取り外した。 「ご苦労さん、いい子だ、よく頑張ったなー」 舌を撫でご褒美のおやつを口に入れてやった。 がりがりとかじっているのは犬のおやつでっかい骨の形をしたクッキー。 「こりゃ痩せていくはずだ」 出てきたおっきな毛玉を見ています。 「春、これ」 「ん?」 なんか赤い虫がうねうねと動いているのが見えた。 「なんかあるのか?」とのぞく男にほらと指さしたリア。まるでお日様から逃げているみたいと言った。 そういわれれば、日に当てると下へ潜ろうとしている。 「セリさん、ビラトー(虫下し)ある?」 「ああ、子供が飲んだ余りがある」 「それどれくらいある?」 これくらいかなという量を聞き、それをバケツ一杯の水で薄めてスフにやってくれと頼んだ。 「ビラ(虫)がいるのか?」 そばを通り過ぎようとした男性が聞いてきました。 「見える?この赤いの、ビラ(虫)だよ、スフの糞に触らないで、乾いたらがんもの油をかけて焼いちゃって」 「焼くのか?」 「海にまかれたらまた繰り返すかもしれないからさ、お願い」 「おう、そんなのならお構いなしだ」 「がんもは当分食べさせないで、薬を飲ませたら三日は餌でやり過ごして」 「おう、そんなことならできる」 「なあ、おっちゃん、なんでこんなことになったかわかるか?」 「生魚食べた?」 なんていろいろ聞いたんだ。 トントントン 「どうぞ」 「内田先生、今いいですか?」 「おう、いいぞ」 実はと話を始めた。 俺は高校二年生になった、声変りをしてだいぶ大人っぽい声になったと言ってもらえた。身長も、父さんと並ぶほどまでになった。 長老と内田先生に頼み、俺と同級生のサクと二人、病院でいろんなことを教わり、医者になるための勉強を始めたんだ。 当初高校は二年だったんだけど、やっぱり三年の方がいいと言って、四年前から高校も三年になった。内容はあんまり変わらないけどね。 「津波の後に自然のがんもが増殖?んー聞いたことないな、それにしてもでかいな、寄生虫にしちゃこれじゃ自然のものも危険だな」 バケツの中の毛玉を見せた。 青魚の内臓なんかによく入っている寄生虫で、本来、赤い糸ぐらいの大きさで長さも二ミリから長くても一センチちょっとぐらいだと、内田先生は本を見せてくれた。暖かくなる、春から夏につきやすくなると解説に書いてあった。焼いたり、煮たりして火を通したら害はないけど、芋虫ぐらいに大きくて気味が悪い。 「今週に入って今日で十一件目、午後の勉強にも食い込んじゃってて、なんか疲れたよ」 一匹見るたびに、お風呂や水浴びをしないと臭いしべとべとになったままだからね。 「何か起きてるんでしょうかね」 そういったのは木村先生。 「戸田の方から報告は来ているか?」 何も来てない。 「新月は?」 「まだ二週間ありますよ」 そう答えたのは看護師の大貫さん 「調査かなー」 「先生はダメです!」 「エ~サク―」 「ダメでしょ、当たり前でしょぉー」 「俺も体が一つだしなー」 口で絶対だめだからねと言ってるやつ。 ケチ! ベー。
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