【5.5】

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【5.5】

 ――ブー、ブー……  もうすぐ午後の外来が始まるかという時間、医局の自席で手早く昼食を取っていた城之崎のスマホが鳴った。画面に表示されているのはかつて大学時代に付き合っていたこともある仲の良かった同期――『安田』の名前。前回電話が来てからひと月ほどか。鳴り止むことを知らない呼び出し音に「はぁー……」と溜め息が漏れる。 「……もしもし?」 『――あ、もしもし? 城之崎? 悪いんだけど、また担当頼めるかな? 今回もお兄ちゃん思い出しちゃったんだよね~。結構強めにかけてるはずなんだけど、しぶといなぁ』 「お前なぁ、何回繰り返すつもりだよ」 『何回でもやるよ? だって、私はそのためにたくさん勉強したんだから』 「……その能力、せっかくなら病院で生かせよ」 『私が国家試験受けてないの知ってるでしょ? 無茶言わないでよ。それに――私はお兄ちゃんに愛されれば、それだけでいいんだぁ~』  城之崎は同期の狂気に満ちた言葉に何も言い返すことが出来なかった。 『じゃ、いつも通りよろしくね!』  こちらの返事を待たずに切れる電話。通話アプリが閉じた画面を見つめ、ふと考える。 「こんなことに付き合い続けてる俺も、狂ってる、か」  画面の暗くなったスマホを胸ポケットにしまう。聴診器を手に取り診察室へ向かうために立ち上がった。かつての恋人からの頼みに再び「はぁー……」と、先ほどよりも大きな溜め息が漏れる。 「覚えて……ねーよな。逆に、お前は」  ひとまずベッドの確保と明日の分のカンファレンスルームの予約。一応、健康状態を把握する程度に検査をして、目が覚めたら名前と記憶状態の確認。  もう慣れたこれからの流れを頭の中で確認しながら城之崎は歩き去った。
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