背徳のオメガ 1

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兄たちは来春に式を挙げる予定にしている。だからそれまでに準備しなければ・・・。 僕は海外に留学したいと両親に告げた。それも高校を卒業したら直ぐに。 大学には進学せずに高校を卒業したら渡米し、初めは言語を学ぶために外国人向けの語学学校に通いながら向こうの大学を受験したいと両親にお願いしたのだ。 オメガの僕が慣れない海外に行くことを初めはすごく心配した両親も、兄の結婚式には出られなくなってしまって申し訳ないけどどうしても留学したい、と懇願すると渋々ではあるが賛成してくれた。 僕の思いが真剣だから、と言うよりは兄の結婚式には出れなくなってしまう、という言葉に両親は反応したようだった。だって、いくら兄に会わせたくないと言っても結婚式にまで行かせないなんて、どんな理由も通らないから。きっと両親は結婚式の日をどうしようか悩んでいたはずだから、留学という大義名分が得られて内心はほっとしたようだった。 僕は両親の賛成を得られたところで、そのことを兄には内緒にして欲しいことも頼んだ。両親よりも心配性の兄は絶対に僕の留学を反対するだろうし、兄自身も結婚の準備で忙しいだろうから、と。大体たかが留学。今生の別れでもあるまいし、留学期間が終われば普通に帰ってくる。それに今までだって兄が家を出てからはビデオ通話でしか会えなかったのだ。その場所が実家から海外に移ったとしても、なんら問題はない。そういうことで、僕の留学は兄には伏せられることになった。 それから僕は卒業までに着実に留学の準備を進めていった。全て自分で準備をし、両親のサインがいる時だけお願いした。 そして、卒業式を迎えた。 僕の出発は3日後だ。 兄には内緒で荷物も送り、あとは自分が行くだけになっている。 卒業のお祝いの席にももちろん兄は来ず、ビデオ通話でお祝いを言ってもらった。兄には僕が地元の大学に進学すると言ってあったので、大学に行っても頑張れと激励されてその日の通話は終わった。 そして二日後、僕は最後の計画を実行する日が来た。 朝早いフライトだからと言って前乗りするために一日早く家を出た僕は、空港近くのホテルにチェックインして荷物を置くと、再び出かけた。 僕はスマホの地図アプリを起動し、目的地に向かう。そしてあるマンションに着くと鍵を取り出して部屋のひとつに入っていった。 そこは兄のマンションだ。 その部屋に、内緒で作った合鍵を使って入ったのだ。 そこは懐かしい兄の香りに満ちていた。そこここに兄の香りが染み付いていて、特に濃く香るベッドに僕は身を沈めた。 そして僕は、そのまま兄の帰宅を待った。 今日は結婚を祝うために兄の友人達が酒の席を設けてくれている日だ。独身最後の飲み会ということで男だけで飲んでいるはずで、主役の兄はきっとしたたかに飲まされているだろう。 そうやって酔って帰って来る兄を僕は待っているのだ。
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