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今年に受験を控えた僕たちは、勉強の息抜きに桜並木を散歩していた。そこでまた、ない思い出の話が始まったんだ。
「今回はタクミも覚えてるはずだよ。ほら、ここ」
そう言ってレイコが指したのは桜の木だった。正確には、その根元。
夏の桜は緑が生い茂っていて生命力に満ちている。レイコの白いワンピースは風に揺れていた。青い空と入道雲の背景に、葉桜とレイコはよく映えた。写真家でもないのにシャッターを切りたい気持ちにさせられる。
でもそれだけだ。特に思いあたる記憶はなくて首を傾げる。
「タクミったら、冷たいんだあ」
ワンピースをひらひらと翻しながら、レイコは踊るようにその桜に近づいた。
くるり、くるり、白が眩しく回る。
そうして不意にその根元にしゃがみ込むと、指先で地面をとんと叩いた。
土が不自然に盛り上がっていた。
「ここに、埋めてくれたじゃない。去年」
「僕が? 何をだよ」
「わたしを」
次に瞬きしたとき、そこにレイコはいなかった。
蝉の声がわんわんと鳴っている。
青々と茂る桜の木と目が合ったような気がして、僕はその場にしゃがみ込んだ。
レイコ。
去年の夏、僕はレイコを殺した。
レイコが今までにないくらい気持ち悪い嘘をついたからだ。
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