ねえ、覚えてる?

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 僕は家に帰って、大きいスコップを引っ張り出した。スコップは物置の奥の方で埃を被っていて、銀色に鈍く輝いていた。  ちなみに、僕の家の隣は、空き地だった。家が建っていた跡すらなかった。  僕は桜並木に戻って、例の桜の下を掘り始めた。たまに犬の散歩か何かで通る人が、変なものみたいに僕を見た。夕方になっても掘り続けた。手には豆ができて、潰れて、痛かった。いつの間にか遠巻きにギャラリーができていた。部活帰りの高校生のようだった。誰も僕に話しかけないで、ただ僕の奇行を見守っている。  コツン、とスコップが何かに当たった。また大きな石かと思って手で取り除こうとしたら、何か黒いものが見えた。穴に膝をついて、そこに手を触れた。土を払って、埋まっていたものを拾い上げる。  黒い、髪の毛だった。  息を吸い込んだ僕の耳元で、くすくすと女の笑い声がした。 「────ねえタクミ、覚えてる?」
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