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「ねえ、覚えてる?」
「覚えてない」
「まだ何も言ってないのに」
ぷう、と頬を膨らませたのは幼馴染のレイコ。小さい頃から、何かにつけて存在しない思い出を語ろうとしてくる、ちょっと変わった女だ。
例えば、昔二人で猫カフェに行ったのが楽しかったねとか(僕は猫アレルギーだ)、先週観たあの映画良かったねとか(ホラー映画を観に行ったことは人生で一度もない)。
今までで一番やばいなと思ったのは、去年の今くらいの時期に言われたこと。
『今日が何の日か、覚えてる?』
『知らないよ』
『ユウタの誕生日だよ。ゴレンジャーのフィギュア買って帰ろうねって言ったじゃん』
『ユウタって』
『わたしたちの子よ?』
『……僕らは付き合ってもないんだけど』
『そうだっけ?』
これにはさすがに血の気が引いた。そもそも僕たちは未成年で、その事実がまた怖さに拍車をかけた。
ちょっと変わった女というのは訂正しよう。かなり変わった女だ。
それでも家が隣だし、この虚言癖を除けばいいやつだから友達でいる。存在しない記憶を誰にでも語っていた彼女と、普通に話せるような友達は今や僕だけだった。
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