2人が本棚に入れています
本棚に追加
幕間
遠き物語。其は、記憶。旧き血。密やかにつづいた貴き血筋。
連綿と受け継がれた稀なる色、湖のほとりに安寧とたたずむ花。
至尊の神に愛されし水の精霊、かの花は、その化身。
神に求められし水は、神の怒りにふれた。理がために。
神の怒りの炎は水を焼き尽くしたかにみえた。されど、水の精は姿をかえた。
花のたね。
風よ、どうか、わたしを運んで。
草木が枯れ、水は消え、空が嘆きに割れようとも。いつしか地に、安寧の雨がそそぐそのときまで。
わたしは眠ろう。そして、今一度、よみがえろう。
返り咲くのだ。花として、水として、ふたたび。
やがて花は生まれ、いつしか滅びた。
いにしえの花。
いにしえの花の色をもつ民。
口から口へ。それは連綿と語り継がれた物語。
水をもたらす民。天のもとの、無辜の臣民。
理を侵したいにしえの神は、その咎のため、地に堕ちた。
その身に赤き呪いを受け、ゆくえは、ひとりとして知るものはない。
されど、理を侵すもっとも悪しき蛮族、それは。
無辜の臣民を踏みにじるもの。凌辱し、駆り尽すもの。
“みつかっては、いけません”
地に堕ちしいにしえの神は、狼。赤き眸の狼。
滅びたいにしえの花の名は、エンツィア。
さて、不幸とは、いったいだれの身に降りかかることか。
水か花か、かつての至尊か。それとも――――――……
最初のコメントを投稿しよう!