幕間

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幕間

 遠き物語。()は、記憶。旧き血。密やかにつづいた(たっと)き血筋。  連綿と受け継がれた稀なる色、湖のほとりに安寧とたたずむ花。  至尊の神に愛されし水の精霊、かの花は、その化身。  神に求められし水は、神の怒りにふれた。(ことわり)がために。  神の怒りの炎は水を焼き尽くしたかにみえた。されど、水の精は姿をかえた。  花のたね。  風よ、どうか、わたしを運んで。  草木が枯れ、水は消え、空が嘆きに割れようとも。いつしか地に、安寧の雨がそそぐそのときまで。  わたしは眠ろう。そして、今一度、よみがえろう。  返り咲くのだ。花として、水として、ふたたび。  やがて花は生まれ、いつしか滅びた。  いにしえの花。  いにしえの花の色をもつ民。  口から口へ。それは連綿と語り継がれた物語。  水をもたらす民。天のもとの、無辜(むこ)の臣民。  理を侵したいにしえの神は、その咎のため、地に堕ちた。  その身に赤き呪いを受け、ゆくえは、ひとりとして知るものはない。  されど、理を侵すもっとも悪しき蛮族、それは。  無辜の臣民を踏みにじるもの。凌辱し、駆り尽すもの。   “みつかっては、いけません”  地に堕ちしいにしえの神は、狼。赤き眸の狼。  滅びたいにしえの花の名は、エンツィア。    さて、不幸とは、いったいだれの身に降りかかることか。  水か花か、かつての至尊()か。それとも――――――…… 
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