宝珠の恋

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胸が張り裂ける。 震えが止まらない。 失う、失ってしまう。こんなにも大切なものは他にないのに! 「俺の宝珠はおまえだ!おまえが好きだ。だから……逝くな!」 「わたしも、だよ。狐月が、好き」 天音が苦しい息の下から微笑んだ。 抱き締めた腕の中からそっと腕を伸ばして、俺の獣耳ごと引き寄せた。 その震えるくちびるでくちづけた。 初めて恋をした。 この世界でたったひとりの女に。 「……狐月?」 触れる指先から冷たくなってく。 温めようとしても濡れる赤いものが広がるばかり。 込み上げてくるのは熱い想い。 俺の命よりも宝珠よりも、大切な女。 おまえをうしないたくない!! 大粒の涙がひとつこぼれて、天音の頬に落ちた。 離れてもずっと見守っていられると思ってた。 そばにいられなくとも、たまに会えると思ってた。 それは間違いだった。 この手を離せばもう永遠に会えない…… 「俺はおまえの他に何もいらない。おまえだけがいてくれたらそれでいい。だから!」 腕の中の光が消えかけてく。 "ねえ、狐月。 ……今度、生まれ変わったら、 わたしのこと、絶対見つけてね……" "ありがとう。 そして、さよなら……" 天音は小さく微笑んでいた。 意識がなくなった瞬間、天音の持っていた宝珠が床に落ちて転がった。 落ちた宝珠はまるで天音の鼓動のように淡く点滅していた。 今まで身体の中に同化していた宝珠。 それを身体に戻すことが出来たら、救えるかもしれない!! まだ間に合うかもしれない!! 宝珠を自分の口に含んで、頬を掴みくちびるを割って押し込む。 自分の指を噛み、溢れ出た血でさらに流し込んだ。 「死ぬなっ!」 それは、万にひとつの賭けだった───
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