マネッチア/沢山の話

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マネッチア/沢山の話

は教えてくれないの?」 5222be26-50f6-45ff-b51e-c08849e2db21 図書館は、子供心を掻き立てるガラスのドームだ。小さいころは、割れないのかと心配だったけれど、今はこのドーム型のアワのなかにまたドームがあるのが、面白くてたまらない。 本棚までガラスでできているから、向こうの本が透けて見えて頭がくらくらする。こんなに楽しい場所なのに、今や大人(スピナー)になるのに狂った仲間は、ひとりも見当たらなかった。 彼は、ツイストは両肘をついて、僕に笑いかけた。 僕の不安もやさしく包み込まれ、消えてなくなる。天使と言っても過言じゃないくらい、この上なく清らかでやさしい笑顔だ。 「子供(ニンフ)にはなんにも教えてくれない。この水疱(あわ)は窮屈だよね。事実、僕もそんなに詳しいわけじゃないんだ。ねぇ、君の名前が知りたいな」 と幼さを残した心地よいソプラノで、つらつらと言葉を並べた。 僕は少し考えてから、答える。 「チア。本名はもう少し長かった気がするけど、忘れちゃった。だって誰も呼んでくれないんだもん」 「残念だね。覚えていたなら、僕が呼んであげたのに」 と彼は心底残念そうな顔をした。 そんなに悲しまれるだなんて思っていなくて、僕は慌てて話題を変える。名前を忘れただなんて話は、僕にとってはさほど重要なことでもなかった。 「ツイストは大人(スピナー)じゃないんだよね?どうやって外に出たの?」 「僕のことはそのうちわかるよ」 彼は笑顔を崩さすに言った。 「……なんで?」 「誰もが否応なくやがて羽化(ハッチ)を迎えるからさ。焦っても、逆に拒んでも、避けられないことなんだ」 ツイストは無表情に言った。彼は、大人になればわかることだと僕をはぐらかした。 「おもしろくない」 「そうだね。でも抗えない」 ツイストは僕から目を反らし、ガラスの向こう、アワのずっと先をじっと見ていた。つられて見ても、僕には何も見えなかった。 「まもなくこの水疱(あわ)は消失する。もう皮膜が薄いんだ……」 「じゃあ出られるの?」 「出られる。そして自由を与えられる」 死ななければね、とツイストは笑った。顔を歪めた。 綺麗な人だと僕は思った。
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