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ツイストウィング/捩れた羽
「チア!」
僕がそう叫んだときにはもうすべてが遅かった。
というか最初から好奇心に満たされたチアには、なにをしても無意味だったのだ。
あの幸せに酔いしれた顔ときたら、あの向こう見ずな姿ときたら。呆れを通り越してゆっくりと煮立つ苛立ちに変わった。
僕は翅を開き、素早く上昇してまたすぐに落下した。瓦斯雲に入る時は息を止める。
一瞬、乳白色の瓦斯のなかで戯れる人影があった。チアかもしれない。ちがうかったかもしれない。
でも、今や誰でもよかった。
ふっと瓦斯の層を抜けると、そこは蒼色の都市だ。遠くにガラスドームの図書館が望める。
落ちながら心底思った。
「つまらないな」
安全圏へと落ちてゆく。くらくら。
あんな危険地帯にはいたくないよな。そして好奇心の果てに死にたくはないよな。
いつだったか、ふいにこの惑星に真っ白でなめらかな惑星が接近して、死のよすがを遺して逝った。おかげさまで、僕たちが平穏に暮らせるのは子供たちの楽園、水疱のなかだけになった。災難というには酷すぎる。
僕たちが巡り廻る秩序を、ご丁寧にぶっ壊したんだ。
それまで空は大人のものだったのに。
白い霧に奪われて。
いのちまで。
うばわれて。
大人になったら死ぬ。そんなこと、誰も知りたくないよね。子供心に笑って、純粋な好奇心に飲まれていた方がよっぽど幸せ。
それでもずっと子供?
いいや、避けられない運命もあるさ。嫌がおうでもやってくる使命。本能。
ひとりの少女が僕を見上げた。
あいさつをしよう。こんにちは。
「僕はツイスト・ウィング。成り損ないさ」
end
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