復讐者という生き方

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 背中から伝わる台座の冷気が気持ちいい。  補助脳のメモリーが遺跡の記憶の欠片で満たされ、AIとのリンクがデータの送信だけで限界まで使われる。  純粋に、ナナがナナの脳だけで思考する時間。  天使が、AIや補助脳のサポートを受けず、普通の人間のように活動することなど滅多にない。  それでも、人類最強のDNAを持つナナの脳は天才の域にあるのだが、人間の脆弱な精神を与えられた天使であるナナにとって、人類を超越した知性は大きなストレスでもある。  ハチとのリンクも途切れて、一人の人間として平穏な気持ちで真っ暗な天井を見つめる。  今、この瞬間もミライは戦っているに違いない。  純粋に、自分の脳だけでミライを想う。  天使を護る地球最強の騎士であり、己の欲情のままに自分を虐待し凌辱する暴君でもある。  甘く、切ない想いが胸にこみ上げる。  「ミライ…」  暗闇を抱くように白い腕を伸ばす。  この気持ちは、本物なのだ。  逃げ場のない廊下で、ミライはすでに3体の強化兵を倒した。  自らも服を切り裂かれ、血塗れになっている。  ここで戦えば苦戦するのはわかっていた。  狭い場所に密集した斬り合いでは、技の優劣など役に立たない。
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