マザー

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 先々代の当主厳流は、最強の弟子でもあるふたりの娘、伊織と詩織を連れてヨーロッパに渡った。  各国政府が水面下でエイリアンの増殖を食い止める戦いをしていたのが限界を超え、正体不明の生物による災害級の殺戮が表面化し始めた頃だった。  極秘裏に結成された連合軍、それによって活性化し始めたヴァンパイアと闇の眷族の活動。  当時、まだエイリアンの事を知らぬハンター一族は、闇の眷族による大規模な人間社会への侵攻と捉え、当地のハンターと協力して実態を調査しに来たのだ。  吸血鬼狩り用の武器を別ルートで送り、協力者から受け取って目的地であるルーマニアのトランシルヴァニア地方を目指すため、パリ経由の空路でブルガリアの都市ソフィアに入り、鉄道でブカレスト北駅に降り立った。  遠路はるばるやって来た親子を出迎えたのはゲイルと名乗る若いハンターだった。  「長旅御苦労ネー」  差し出された手を厳流が握り返すが、美しい双子の姉妹はその後ろで警戒するようにゲイルを見ている。  ゲイルの見た目は隠密行動をするハンターとは思えぬ派手なもので、もともと目立つブロンドの長髪なのだが、その一部を赤く染めている。
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