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 これだけ守りを固めていても、百年以上何事もなく安全に過ごせたということは無いだろう。  延々と続く海底トンネルを走るゼロ号機の窓辺で、ミライは母の故郷であったこの国に思いを馳せる。  軍事用ではなく、たんに物流や観光のためにこの様な道路や巨大な人工島を作っていた国。  陸上においても網の目のように、地下に何層にも構築された鉄道網があり、広大な地下街があったという。  ほんの少し、首都を要塞化する事に力を割けたら、モスクワの地下鉄や北京地下城のようにエイリアンの侵攻に対抗できたのではないだろうか。  この時代に生きるミライの感覚で考えれば、列島を要塞化し、騒乱があれば軍が市街地を即座に制圧できる体制を整えるという政治家をこそ頼もしいと思うだろう。  だが、歴史を学ぶ限り日本においてそれは、軍国主義者、平和と自由に反するものと非難された。  平和と安全を守るために軍備を増強する、市民の行動に圧力をかけるという行為が矛盾を孕んでいることはミライにも理解できる。  ミライは肉弾戦を得意とするヴァンパイアだが、元々人間としても聡明な少女だ。
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