2.僕達の新しい地獄

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2.僕達の新しい地獄

「ヒヒヒ、君にも見えるかい、牛頭(ごず)? かつて僕達を牛馬のごとく酷使していたあいつのあの惨めな姿が」  床に開いた覗き窓から無間地獄を見下ろしながら、閻魔はかつての相棒だった牛頭の遺影に語りかけた。 「いやー、偽りの希望をぶら下げておいてそれを打ち砕くことで更なる絶望を味わわせるとは……さすがは閻魔。実にうまいこと考えますなぁ」  蜘蛛をはじめとする蟲達が、感心することしきりといった様子でお追従を述べる。 「ヒヒヒヒ、王制時代にあった出来事を元ネタにしたのさ。まあ、あいつがかつて僕達にした仕打ちを考えれば、これでも全然生ぬるいくらいだけどね。ああ、あの頃は本当に酷い生活だったなぁ。昼も夜も休みなく馬車馬のように働かせられ、育休が欲しいと言っても仕事を舐めてるのかと一喝され……。もっと早くに革命を起こしてあいつを閻魔大王の座から引きずり降ろしてさえいれば、牛頭が過労死することも無かったのに」  そう言いながら閻魔は、悲しげな顔で再び傍らの遺影へと目を向けた。 「まあ、こうしてあいつの無様な姿を見せてやることが、牛頭へのせめてもの手向けかな。蜘蛛の糸はここから垂らされてるだけで極楽浄土になんて繋がっちゃいないのに、必死で登ってる姿は実に滑稽だよね。ヒヒ、ヒヒヒーン」  閻魔がひとしきり笑った直後、地獄に始業を知らせる鐘が鳴り響いた。 「おっと、もう九時か。それじゃあ、君達は通常業務に戻ってくれ。僕も現場を見て回らないと。僕達の新しい地獄では、王制時代みたいにトップがふんぞり返って現場を見ようともしないなんてことはあってはならないからね」  閻魔はそう言い残すと、部屋を出て行った。
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