小説の中の世界

1/3
10人が本棚に入れています
本棚に追加
/3ページ
「ねえ、ここはどこなの!?」  カナは叫んだ。 「うるせえ、黙ってろ!」  男の脅すような声に思わずびくついてしまう。  一瞬のことだった。  車の中に引きずりこまれて、目隠しされて手足を拘束されたのだ。車はガタガタ揺れている。どこに行こうとしているのだろうか。  カナは、幼稚園の頃に両親を失った。もう物心がついていた頃だったから、両親が亡くなったと聞いてとんでもなく悲しくなった。  それからというもの、悲しさであまり喋らなくなったカナは、周りの人からいじめられた。もう自分の人生に意味はないと思っていた。だから、今の状況でももういいやと思い始めていた。  不意に、静かになった気がした。  いや、確実に静かになった。  そして、拘束したひもが何者かによってほどかれた。カナは、不思議に思いながら自分で目隠しをとった。  そこは、真っ白な世界だった。真っ白で、何もない。ただ、カナが座っている椅子だけがある。  そして、目の前に少女がいた。さっきほどいたひもを持っていた。少女は、よく分からないことを言った。 「さっきあなたが居た場所は、小説の中の世界なんです」
/3ページ

最初のコメントを投稿しよう!