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第三話・強くなりてぇ☆~寝技編~
都内、ビルの地下にある「総合格闘技道場・総バカ大将」(総合格闘技バカ大将)のジム内は、板張りにマットが敷かれてあるところで寝技のスペース。
隅にサンドバックが3つあり、そこで打撃の練習をしていた。
(寝技、立ち技ともにTシャツに短パンのラフな格好)
寝技を指導しているライトヘビー級の反町竜太(28)178センチ・86キロは、
6勝1敗の日本ランキング2位。
反町は道場生相手に次々と関節を決めていく。
相手は、たちまち悲鳴を上げて降参(タップ)の連続。
立ち上がった反町は、関節を押さえてダウンしたままの相手を見下してニヤニヤしている。(狂気の笑み)
反町 「ボコボコにするよりバラバラにするほうが楽しいから、関節技大好き♡」
道場主の沖田流(りゅう)義(ぎ)(52)は、赤柳に入門に至るまでの経緯を聞いた。
沖田 「そうか。神聖、邪道、そして総バカ(うち)か……そもそも、何で格闘技をやろうと思ったんだ?」
赤柳 「理屈じゃなく、男が強くありたいと思うのは女が美しく成りたいと願うのと同じで、持って生まれた本能だから……餓鬼がそのまんま大人になったのが、格闘家だと思います。だから俺は、強さだけで生きていきたい」
沖田 「総合は立技・組技・投げ技・寝技を駆使して闘うが、基本となるのは寝技(グランド)だ」
というと、反町を無表情で見た。(氷のように冷たい)
「お~ぃ反町、楽しい関節技を優しく教えてやれ」
その真意は、次のようなものであった。
沖田 (勘違いしている素人には、徹底的に己の弱さを教えてやるのが俺の流儀よ)
反町 (沖田さんが無表情で、あえて俺に指導命令するときは、死ぬほど痛めつけていいってことなんだよな)
そして、赤柳を見てニヤリ。
(確かにバラバラのしがいがあるなぁ、ヒヒヒ)
赤柳も、無表情であった。それを見た沖田は、ニヤリ。
沖田 「寝技の怖さを知らないから、これから自分がどうなるか分かるわけねぇよな」
まずはタックルで赤柳を倒す反町は、右足首を右脇に挟んでアキレス腱固めで締め上げた。
赤柳は顔を歪めて苦痛に耐えるが、つま先を立てて防御した。
沖田 「アキレス腱固めは、つま先を立てて腱を伸ばすと急所を押さえられなくなるから極まりづらい。だが……」
と、意味深に解説した。
反町は、赤柳の踵を自分の右前腕に引っ掛けて、ヒールホールドを極めた。
沖田 「踵固め(ヒールホールド)の、格好の餌食になる」と、してやったりの表情。
赤柳は歯を食い縛り、うめき声を洩らす。
沖田 「我慢すると危険だ。膝の内則靭帯を損傷して、歩けなくなるぞ」
と、叫んだ。
赤柳は、絞められる方向に体を回転させた。そして、うつ伏せになると同時に右足を抜くと立ち上がった。
沖田 「そうだ、相手の力に逆らわずに体を回転させればいい」
「なかなかの本能だな」
続いてムキになった反町のタックルを、赤柳はいったん切る。
(つまり、ステップバックして外した)
反町は前のめりに倒れながらも、右手で赤柳の踵を引っ掛けて倒した。
そして尻餅をついた赤柳を、すかさず柔道の「けさ固め」で押さえつけた。
苦しむ赤柳は身動きが取れない。足をバタバタさせるのみ。
赤柳 「ううっ、畜生」
狂気の反町は、
反町 「畜生だぁ?」
「これで降参させても、面白くねぇ」
と起き上がり赤柳の右手首を両手で掴むと、素早く両膝で右腕をはさむような体勢から、腕ひしぎ十字固めへ。
反町 「腕を折らなきゃ、気が済まねぇ―ッ」
そして、極まった。
しかし、赤柳は自分の顔の上に乗った膝の裏側、ふくらはぎの端を噛んだ❢
反町 「いっでぇ――❢」
とたまらず起き上がりながらも、腕を赤柳の首に絡めてチョークスリーパー。
完全に極まったが、降参しない赤柳の口から泡が。
沖田 「こいつ、降参(タップ)を知らねぇんだ」
それでも絞め続ける反町の首を、沖田は同様にスリーパーで絞めた。
沖田 「やめろッ、死ぬぞ」
END。
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