あの日

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 多分できますといわれても。処女を抱いたことは今までにもあったが面倒だったというのが終わったあとの感想だった。初めてとはどうやっても痛いものだ。こちらも気を遣ってなるべく苦痛がないようにするが、どんどん面倒になり性欲もうせる。だがそれで目的が果たせませんでしたとなればそれはそれでシャクなので、どうにか終わらせる。相手はもちろん痛いだけで終わった後にシーツが血で汚れているのを目にしてしまうと二度と処女は抱かまいと思った。  女は緊張を解くことなくシャワーに入ろうとした。私はその後ろ姿をみながら自分の中にある残酷な部分と早くも失せ始めている性欲が散乱し「いいよ」と口にし、彼女を止めた。  その声に女は振り返り「え」と言う。私は立ち上がって部屋のカギを取りドアに向かう。  「もう帰るわ。いやぁ、その年で処女とか引くわ」  言うつもりはなかったが悪態をついてしまった。女の反応は見ていないが息をのむのがわかった。振り返ることはなかった。女とはそれきりである。  そのあとどうなったのかはわからずそれから行く分時間が過ぎていた。こちらの知ったことではない。ただ欲を発散したかっただけなのだから、向こうも向こうでこちらのことを気にすることはないだろう。  そこまで同僚に話し終えると同僚は「へぇ、そいつはえらい大変な思いをしたな。たしかにその年で処女はきついな。モノ好きしか相手にしないわ」同情するような面白がるような言い方だった。この男なら処女ときいてもそつなく抱きそうだなと思う。器用な男だからだ。  「つまらん話をしたな。すまなかった」  「いんや、楽しかったよ。それっていつの話なんだ」  「あー、今年の春くらいかな。ああ、その後だよその橋のところにドライブに行ったのが。女にはついてないし、大事故を目の前にするし散々な一日だったなぁ」  「ははは、そうだな」  そこで話は途切れて私と同僚はてんでに残りの休憩時間を過ごして仕事に戻った。  久々に思い出したあの日の出来事。ああ、そうだ。あの橋の事故の時だったのかあの女と出会っていたのは。ぼんやりとそんなことを思いながら私は携帯を手にして最近マッチングアプリで知り合った女のアカウントを見た。  その女の年齢は私よりも六つ下。自撮りの写真はそこそこうまく取れているのかそれとももともとこういう顔なのか、整っている。美人というよりはまだ幼さが残るところもありかわいいという印象がある。  アカウントの情報は嘘のこともあるが嘘があればぼろがでるものだ。それに実際に会っていなくても相手がうそをついているかどうかを知るコツを私は身に着けていた。  私の容姿も知っているがその子は私のことをやたら気にかけていて、どうやら今週中には会いたいらしい。決してかっこよくはない顔なのだが、何か興味があるのかやり取りが続き親しくなった。  『明日会いませんか』  そんなメッセージが来たのは同僚に処女の女の話をした次の日のことだった。  今日は土曜日。割と急な提案に少し戸惑ったが私はその子の提案に乗った。性欲がたまっていたのもあったしちょうどいいと思ったからだ。きっとこの子もそのつもりなのだろう。見たところいろんな男から声をかけられていそうだし、処女ということはなさそうだ。  気軽な気持ちで私は了承し明日何を着て行くかのんきに考えていた、その時までは。  
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