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次の日。天気は晴れでまさにデート日和というものだったがそれのど初々しい気持ちを持っているわけではないので、淡々とした思いでその子を待った。
目印としてピンクのクマを持っているとその子は言った。私は黒いキャップ帽をかぶっていると伝え、人通りの多い通りで待った。休日というこ ともありカップルや家族連れが多い。多くの者がキラキラした笑顔を浮かべて私の前を通り過ぎていった。いろんな事情はあるだろうがこうやって不純な気持ちで私が女性と待ち合わせているなどだれも思わないだろう。いや、それともこの目の前にいる絵に描いたように輝く人達も何かほの暗い思いがあるのだろうか。
『もう待ち合わせ場所にいます』
そうメッセージを送ると返信はなく五分もしないうちに声をかけられた。少女のような大人の女性のもののような不思議な声音だった。
「こんにちは、えっと。アカウント名はサクラっていうんですけど。えっと、ナニモノさんでよろしかったですか」
「はい、こんにちは。ナニモノ、です」
一体何を思ってつけられたアカウント名なのかと思われただろう。特に由来はない。目に留まりやすいかと思いそうつけたのだ。
と、そんなことを思っていたが私はそれよりもサクラの容姿に目を奪われていた。今までにないくらい器量が良い顔をしていた。
美人やかわいいですますには言葉がたらない。私のような平凡な男がどうしてこのこと顔を見合わせているのか不思議なほど見惚れる顔だ。
「今日はいきなりすみません。どうしても会いたくて無理を言ってしまいました」
「いえ、こちらもあえて良かったです。えっと、これからどこへ行きますか。今日は車できたので遠出もできますよ」
遠出などするつもりはかったが手っ取り早く話を進めるためには車は便利だ。自宅の近場のホテルは知り合いに会ったときに気まずい。
サクラは「まあ、そうなんですか。じゃあ、少しドライブしたいですね。いいですか?」
社交辞令のつもりで言ったのにまさかの提案に驚いた。つい舌打ちをしたい感覚が生まれたが飲み込む。まあ、まだ昼だ。少しドライブをすれば満足するだろう。
表情を崩さないようにして「いいですよ」と言い、パーキングまでサクラと向かう。
街中を歩いている間もこんなに容姿の良い女と歩くのは初めてだ。今まで出会った女たちのことなど吹っ飛んでしまう。いや、だが浮かれるのはまだ早い。この女が本当に自分と寝るだろうか。そのつもりでいるのは自分だけではないはずだが、と思いながら車の扉を開けたときだった。
空気が抜けるようなシューッという音が聞こえたかと思うとふわっと甘いような香りがした。そして一体何が、と思う間もなく私の意識は途絶た。
一体何が起こったのか。サクラという女に会ったのは夢だったのだろうかと記憶の整理をしていたが、自分の手が縛られていることに気が付き嫌な興奮を覚えた。夢であればどれほどいいだろうかと思いながら体を動かす。場所を確認しようとすると上の方が妙に明るかった。外、というのがわかる。
外と言っても街中などではい。森、木々が周りにある場所だ。
「目が覚めましたか。おはようございます。ご気分はいかがでしょうか」
やさしい声音。聞きなれないがサクラの声だということがわかった。やはりいい声である。
「ん、君は」
無様にも地に這いながら人を見上げるというのは惨めになるものだ。私は声の主であるサクラを見上げた。
サクラは私を見下ろして微笑みを向けている。
「あの、これって一体どうなってんのかな」
半笑いでサクラに尋ねる。しかしサクラは私のことを冷たく見下ろして女の力とは思えない勢いで私の顔を蹴った。
架空の世界ではよくあるシーンだろうがこうして生身で受けると信じられない衝撃と痛みが全身を支配した。同時に感じたことのない恐怖も生まれた。
何が起こっているか理解できないまま手が縛られているのでうめいてうずくまることしかできない。立って逃げようと思ったが足もしばられていることに気が付いた。
これでは逃げることもできない。それにあたりを見回す限り人がいるとは思えない。助けは呼べない。
どうなってしまうのか。最悪の事態が脳裏をよぎったが真正面からそれを受け止めることができない。
「ねぇ、覚えてる?」
恐怖で混乱している私にサクラは言った。少女のような大人の女性のような声だ。
「なんなんだ、君は。一体私に何の」
「ふふふ」
私がそう聞く中サクラは笑った。その笑顔は楽しくて仕方がない。こんなに面白いものをみたのは初めてだと言わんばかりの笑顔だ。
しかしその笑顔がぴたっと止んだかと思うと次は目を見開いてひとかけらも瞼を動かさずに低く言う。
「あなたは、私の姉さんを殺したのよ」
「は?何言ってんだ。人違いだ!私はあんたの姉なんか」
知らない、と言おうとしたらまた顔面を蹴られた。今度は先ほどより良い位置に当たり痛みが強い。ひどいあざになるだろというのはよくわかった。
サクラはしゃがんで私を見下ろしたかと思うと前髪をつかんで私の顔をあげさせて言い放つ。
「あんたがこのアプリであった女がいるでしょう。処女とわかってあんたがホテルに置いて行った女よ。覚えてるでしょ、あんたがしたこと」
蹴られた痛みで一体何を言われているのかわからなかったが、話の内容ですぐに何のことかわかった。最近同僚に話したあの処女の女のことだ。確かに私はホテルに女を置いて行ったがそれ以外は何もしていない。暴力などふるったわけでもないし、暴言は多少はいたがこんなことをされる筋合いはない。
「私は何もしてない。一体何のことを言っているんだ」
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