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16.休載する山下さん
「休載ということは、また動き始めるタイミングがあるということよ」
「本来はそうだね。また動く為に、休むという行動はあるのだから」
「最近は何をしていたの?」
「生きることと死んだふり。相変わらずのしっちゃっかめっちゃっか」
「やれやれ」
やれやれ、ときたもんだ。
こうしてダイアローグだけ残すのも、前に試した技法なので芸がないと思われるでしょう。
続きそうで続かない話はいくつもあるのですけれど。続いてちゃんと終えることは存外に難しいのです。解説する山下さんに、きっとその辺りの動線づくりはお任せしましょう。
それまでは一旦実況見分。中継の山下さん、聞こえていますか?
「はい、私は今、物語が通らない交差点だか十字路におります。西部劇のような風が流れ、運ばれた砂が顔に乗って鬱陶しいですね」
大変なところから中継ありがとうございます。ここではこれから、何が起こるでしょうか。
「そうですね。物語が反芻されて、羞恥をもたらして。ですがまた歩き始めるでしょう。その足音が聞こえている気がします」
そんな調子のいいこと言って、前も動かなかったのでは?
「さあ。記されていない出来事は起きていないに等しいので。貴方の言う前は、ほら、ここには存在しないに等しい」
物語界の横暴ですね。貴方は王にでもなったつもりですか、地の文の私よりも?
「これほど乱雑な文体において、地の文ほど信憑性のない存在もおりますまい。まだこうして括弧に整形された私の方が、親しげに見えるでしょう。狂人はまだ人なだけ、飯を食わねば死ぬなど道理が通っている。貴方のような宙に浮かんだ『狂』の一文字では、そうはいかないでしょうに」
やれやれ、口の回ること、滑ることよ。
「おやおや、言うに事欠いて今度はそっちが『やれやれ』ときたもんだ。随分定型にはまったもんだね。いや、持ち球が少ないとでも野次るべきですか」
否定はしない。所詮一人でじゃんけんをしているようなものだ。
さて、そろそろ収集もつかなくなったが、これで少しは筆も持てようか。休載よさらば、あるいはこんにちは。
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