編集者の事件メモ3(真木サワ)

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人並みに、お姫様願望はある。 小さい頃に読んだ「かえるの王様」のシチュエーションは、最高だ。  ヒロインは、王さまのいちばん末のお姫さま。  美しいお姫さまは誰からも愛されていて、お日さまでさえみとれてるほど。  ある日、お姫様は川でお気に入りの金のまりを落としてしまう。  すると、一匹のかえるが現れて、彼女にこう言うのだ。 「あなたのかわいらしいお床のそばで、ねむってよいとおっしゃるなら、わたしは水のなかから、金のまりをみつけてきてあげましょう。」 まりを拾ってもらい、約束をはたしてもらおうと城にやって来たかえるへのお姫さまの仕打ちは、傑作だ。 「床に入ってきたかえるをいきなりつかみ上げて、ありったけのちからで、したたか、壁にたたきつけました。」 小さかった頃の私は、この場面になると笑い転げて、何度も読んでとせがんだものだ。大人になって読み返すと、まったく酷いお話だけれど。  哀れなかえるは、なんと魔法をかけられた王子さま。  お姫さまは人間に戻った王子さまと無事結婚し、めでたしめでたし…。 生まれた時から欲しいものを全部持っているお姫さま。どんなに酷いことをしても幸せになれるお姫さま。もし私がお姫さまだったら、優しくしてくれたかえるにせめて、とても親切にしてあげるのに。 ふと、サワは我に返る。 仕事ばかりも、人生つまらない。 恋愛にも憧れる。 けれど、モテているのは、まだ若い今だけかなと考える。社会人ってのちのちの関係を考えるから、男女の出会いは思っていたより少ない。
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