編集者の事件メモ3(真木サワ)

12/108
前へ
/108ページ
次へ
「どうしたの?映画がつまらなかった?」 映画の上映が終わり、ショウはサワの顔を覗き込む。サワは、心ここに在らずだった。 「気晴らしに、ショップにシューズを見にいこうよ。」 エスカレーターに乗るショウの足取りは軽い。サワは、つられて後をついてゆく。 映画は面白かった。デートは楽しい。 なのに、困ったことに職場でのゴタゴタを思い出して、ついイライラしてしまった。 思えば入社したての頃、サワの頭の中は、お給料のことでいっぱいだった。 父親や祖母や母の面影のある実家を出て、自立したい。でも、そのためのお金を今の給料からどうやって貯金しよう、と言った具合に。 でも、あれから数年が経って、今のサワにはわかる。 当時、自分の頭の中を大きく占めていた問題は、さざ波でしかなかった、と。
/108ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加