編集者の事件メモ3(真木サワ)

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数年前から、新人の指導を任されるようになった。 「新人が君の下につくから、サワさんが仕事のやり方を指導してやって。」 そう上司から言われたサワは、自分が誇らしい。自分に部下ができると聞き、ワクワクしてくる。 しかも、その新人は自分と歳が近いらしい。いままで同年代の女性が周りにいないかったから、楽しみである。友達みたいにおしゃべり相手になってくれるかも。 新人は、化粧バッチリな美人さんだった。サワは、張り切った。が、もくろみは大きく外れることになる。 新人は見た目に反して、ものすごく性格が悪いのだ。 上司が同じ部屋にいる時は、自分にとても愛想がいい。だが、上司が部屋にいないと、とたんにマウントを取りにくる。  サワさんは、私より年下。  サワさんは、私より学歴が下。  サワさんって、常識がない。  サワさんは、女として私より終わってる。 新人は、明らかに自分を下にみてて、事あるごとにさげずむ。彼女にしてみれば、自分みたいな小物に指導を受けるのが、我慢のならないことらしい。 はじめの頃は、何か彼女が勘違いしていると思おうとした。少なくとも彼女のマウントは、サワにとって意味のないものだったから。 サワには、親の援助を受けて学校に行かなかったのはプライドだからで、自慢ですらある。年齢だって、学生時代の先輩後輩の関係は、仕事の上下関係とは別物のはずだ。 そうやって初めは大人の対応で聞き流してきたサワだったが、やがて怒りが鬱積してくる。 サワは、思う。 新人の言う常識なんてローカル・ルールで、仕事に関係ないし。 仕事にフェミニンは必要ない。着飾るくらいなら、もっとお金を貯めたいし。 私は、遊んで時間を浪費した新人みたいに、無駄に歳なんてとっていないし! でも、言い返さずに黙っていた。 何か言ったところで、彼女には負け犬の遠吠えとしか聞こえないだろうから。 自分は、業務を黙々とこなすだけだ。そうこうして、新人の仕事がうまく行った時は彼女の手柄。彼女が失敗すれば自分の指導が下手くそなせい。気分の良いものではなかったが、それで表面上はうまくいった。 近頃は仕事に将来性が見出せないでいる。頑張ったところで支払われる給料はかわらないし、モチベーションが保てないでいる。昔はあんなに張り切っていたのに。 一生懸命働いたところで私は評価されない。どうせ夢は叶わない。 そんなこと考える自分は、近ごろなんかふけた気がする。
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