編集者の事件メモ3(真木サワ)

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「あーあ。私たちって、なんでクリスマスに残業しているです?しかも、金曜日の夜にですよ?」 年末の残業に、新人は不満タラタラだ。 それにしても、今日の彼女はなんだか馴れ馴れしい。いつもは私のことを無視して、もっとツンツンしているのに。 「明日は出勤ないし、帰りに駅前のイルミネーションでもゆっくり見たら?」 そんな新人に親しく返したものか、サワは迷う。 「サワさんは、今晩の予定とかあるんですか?」 新人が、サワを見る。 サワは面食らった。 今日の彼女は、馴れ馴れしいんじゃなくて、「しおらしい」んだ。人恋しい彼女は寂しいのだ。 だからと言って、新人とイルミネーションを見に行くのだけは、勘弁して。 「私は、これ終わったあと忙しいから。このまえ映画を見た人と、ケーキ食べにいく約束してる。」 「どんな内容の映画?」 サワは、ショウと行った日のことを思い出す。 「”カエルの王子”の映画。カードを持った占い師が魔法で王子をカエルにして、キスで呪いを解くやつ。子供向けのアニメなのに、生々しくて怖かった。ふつうに面白い映画で。」 「カードって?」 「タロットカードだよ。カップの九番、願望実現と強欲のサイン。それで、夢の実現より、結局は愛が大事なんだってテーマ。」 サワは思う。 (私の願望は、とにかく自立することだわ。でも、それだけじゃヒロインの言うように足りないのかしら。 夢より大事な愛って、何を指すの?映画のプリンセスは、両方手に入れるのよね。) 考え事をする自分を覗き込む新人と、目が合う。 そうか、間違えた。彼女は映画の内容が知りたいんじゃない。 私が誰と観に行ったかが、知りたいんだ。 この時どういうわけだか、新人との間の潮目が変わった気がした。 なんだろう、この感じ。気のせいかな? さっさと仕事を済ませて、サワは走ってショウとの待ち合わせ場所に急ぐ。 特別な日には、たまに奇跡が起こるらしい。
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