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「いえ。大学に行ってやりたいことは特にないので、受験はしません。」
それは、サワの本心だ。
私には、友達のあずさのような夢はないから。
進学なんてお金も時間ももったいない気がする。なんと言っても、勉強したいとは思っていない。
でも、担任が意外にも自分のことをちゃんと見ていたと知り、サワはそれが嬉しかった。誰かが自分の将来について考えてくれている。
サワは家に帰って、父親に進学について相談してみた。
父は、
「母さんと一緒に、お前のための積立て貯金をしていたんだよ。」
と答えた。
「大きくなった時のために、お金が必要になるかもしれないからって。」
予想していなかった事態に、サワは目を輝かせて興奮した。
みんなが私を応援してくれている。私も、何か夢を持ってみようかしら?
何を目指そう?教師は自分向きじゃないしな…。
テンションが上がったもものの、父が言った「母と一緒」と言う言葉が引っかかる。
「でも、高いらしいよ。授業料の他に入学金も受験料も。いくら必要なのかな?ところで、そんなお金どこにあったの?」
父は、薄くなった頭をかきながら、続けた。
「多分、母さんが通帳を持って行った。確認していないから、お金は貯まっているか分からない。もしかしたら、母さんが積み増ししてるかも。」
母には小学以来会っていない。
中学の頃までは娘のことを気にかけているのでは、と、どこかで期待していた。けれど、卒業式に参列したのは祖母だけだ。そんな母が今さら、通帳を送り返してくるとは思えない。
サワのこの時の落胆は、ちょっと凄まじい。
しかも、問いただせば、その口座に父はまだ送金を続けていると言う。
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