編集者の事件メモ3(真木サワ)

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卒業式までの時間は、手から水がこぼれ落ちるようにあっという間だった。 卒業後のお互いの行き来をかたく約束した、私とあずさ。 だが、仕事と勉学に忙しい2人の仲は、疎遠になりつつある。 「お給料をもらっている分、遊びを優先するわけにいかない。」 慣れない仕事に追われる日々は、慌しく過ぎる。 自由になるお金が手に入るのは、最高だった。意外とあっさりと大人になった気がして、拍子抜けする。 でも、どこか引っかかる。まだ、自由になった気がしない。 職場には、実家から通っていた。考えてみたら、なんだかまだ学生生活を引きずっているみたい。 だからと言って、今の給料では自立できそうにないけど。 家を出るのに必要になるお金を、計算してみた。 家賃に光熱費にネット代。それだけに収まらない。働き始めて知ったのは、税金と年金と保険料がびっくりするくらい引かれるのだ。 試しに家計簿をつけてみたが、一人暮らしなんてとても無理だと悟った。 サワは、思い起こす。夢がいっぱいだった、新社会人の頃は、周りからちやほやされて、楽しかった。 それなりにモテてたけど、誰ともお付き合いするには至っていない。とにかく、仕事を覚えるのに必死だった。 働き続けるのは楽じゃない。仕事がうまくいかずに落ち込んで、周りの年長者に気を遣っている間に、日々がどんどん過ぎて行く。
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