君とバレエと世界と

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「転入生」 僕は特に、その3文字に興味はなかった。 例えばその男が長身で、顔が綺麗だったとしても、僕にとってはバレエに関係するもの以外はこの世界のおまけだと思っているから。 だから、体育館で例の「転入生」のふくらはぎを見た時、僕は「見つけた、」と思った。 彼の脚は、部活をやっている訳でもないのによく筋肉が付いていて、しかし付いている部分はバレエダンサーのよく使う部分、そこであった。 東京にいれば、嫌でも大手のバレエスクールは限られてくる。 運の良いのか悪いのか、学校で見た素晴らしい筋肉を持った彼は、僕の所属するバレエスクールに溶け込むようにやってきた。 そう、それはまさに、霧が闇に溶けるみたいだった。 居るのに、居ない。色がないのに、真っ黒。自分がないみたいに振る舞うのに、スタジオの真ん中に立てばスポットライトが落ちてきたのがわかるみたいな、そんな男だった。 「あら、今日はまた一段と疲れてるわね」 母が手料理を沢山用意して、僕の帰りを待っていた。 いつもの事だけど、今日はなんだか母の料理たちの華々しさが、僕を嘲笑っているような気がした。 「何かあったんでしょ?」
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