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「……すごい男が来たんだ」
「ちょ、ちょっと待って。しっかりね、最初から、分かるように説明してちょーだい」
僕は、今日転入生が来たこと、その彼が非常なダンサーとしてのタレントを持っていたことを母に話す。
「あら、それでへこんでたわけ?」
「……知らない。」
「いいのよ。あたしに喋れるだけまだいい方だわ。食べなさい、とりあえず、食べれるのから」
この家のもうひとりの男は、まだ帰ってこない。
……理由は、僕も知っている。
だけど母は離婚しない。
離婚すれば、僕が将来行きたいボリショイへの希望が絶たれることを知っている。
それを知っていて、次から次へと手を出していく男のために作られた料理たちでは、ない。
これは僕への食事だ。僕と母が囲むべき食事。
それだけでいい。それだけでまだ、耐えられる。
「ママも見てみたいなぁ。その子の踊り」
まずは僕のを見てよ。そう言いたかった言葉は、シチューと唇の間で一瞬だけ、声になっていた。
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