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「そうじゃないと逆に困るよ」
じゃあ、と口に出して、篠崎くんが僕の左耳で囁いた。
「君の踊り、すごく好き」
その声はまるで……いや、信じられないほどに色っぽくて、そして内容は嬉しくて。
褒められるなんて、何回あった?
発表会の度、コンクールの度、知らない人から握手されて耳元で、「君の踊りは才能がある」「今から将来が楽しみだ」「海外に……」そんな言葉たちよりも、篠崎くんの一言はずっと、嬉しかった。
僕は涙が出そうになって、篠崎くんから離れて、ひとけの無いレッスン室Bに滑り込んだ。
「すごく………好きだ、って、言った。」
それは僕が1番に、飢えていた言葉。
上手いとか華があるとか体型がいいとか、じゃなくて。
「彼は、彼は、僕の踊りが、好き。」
僕は踊り出していた。
頭の中に音楽が鳴り始めたから。
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