5人が本棚に入れています
本棚に追加
「あら。なんか今日は嬉しそうね」
母は機敏に僕の感情を感じ取ったらしい。
「珍しいじゃない。やっぱり、噂の彼のことでしょ?」
「……君の踊りが…」
そこで僕の口は止まった。
篠崎くんの「好きだ」を、僕のもののままにしておきたかったから。
「すごくいいって、言われたよ」
「あらまー良かったじゃない!その子、上手いんでしょ?なおさら嬉しいねぇー」
「全身真っ黒なんだよ。練習着も、ソックスも黒くてさ。忍者ってよりかは、殺し屋みたいに目も鋭いんだけど、女の子と踊る時は全然違う顔してて……」
僕はハッとした。喋りすぎた僕を、母がにやにやしながら見ている。
「相当入れ込んでるわね」
「…うるさい。食べる」
僕は今日も、出来たてみたいに温まっている夕食を食べた。
食卓に父親はいなかったけど、それでいい。それがいい。
ロールキャベツは相変わらず美味しかった。
ーーー
「明日から冬休みに入りますが」
続いたのは進路や就職の話。僕や篠崎くんには、ある意味縁のない話だ。
「瞬くんは大学とか行かないんだよね?」
「うん。ロシアに行くから」
最初のコメントを投稿しよう!