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香りに沈みかける私を叩き起すように、紫藤さんは何度も、何度だってキスを落とした。隙間なくピタリと覆われ、あまりに深くて、酸素まで奪われて苦しくて、顔を背けようとすれば、手がそれを阻んで逃げられなくする。
「俺、束縛すげーよ」
「どんな風に?」
「男と話したらキレる」
「こわ。紺野くんと話せないじゃん」
明日からどうしようと思考を固めていると「それは嘘だけど、しつこいよ」嘘つきらしく彼は、べ、と舌を出した。
「あっさりしたのより、しつこいほうが好き」
「食べ物かよ」
「違います、好みの話です。そういえば、昨日、黒崎さんお持ち帰りしたってホント?」
「は?お持ち帰りっつーか、昨日、早く乃々子んところ行きたくて途中で抜けたらあの子が付いてきただけだよ」
「本当に?」
「本当に。次の企画の担当だから最近打ち合わせで一緒になる事が多いだけで、それに」
「それに?」
「いや、なんでもない」
疑問を解決するよりも先に、口付けを落とすとゆっくりと手を差し込んだ。
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