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飲み会って憂鬱だ。職場の飲み会なんてこの世から消え失せてもいいと思う。
「紫藤くんが幹事の飲み会ってハズレがないよね〜」
大衆居酒屋の個室、へんに鼻に障る声が正面から聞こえた。ピンク色のカクテルを両手に抱えた女性社員と、その隣で「そうかな」と、謙虚そうに目を細める男性社員の会話。
私は営業課の男性社員たちの愚痴を耳で受け流しつつ、仕事の延長戦のような笑顔を貼り付けて、この場をやり過ごすことに徹する。
金額分食べなくては、と思う性質なのだけど、そんな暇もない。テーブルの下でパンプスからつま先を取り出し、解放感に浸りつつ、隙を見てつくねの串に手を伸ばす。
「柿原ちゃんって、串から外す派なんだ」と、隣から串の先端を向けられるので「はい、一応」とつくねを黄身に潜らせて、口に頬張った。
どうでもいいじゃん、愚痴は一定して心に閉じ込めて笑顔を振りまき、空になった皿をテーブルの隅に片して次の注文をとる。飲みたいビールをグッと我慢して、頼んだばかりの二杯目のモヒートに口をつけた。
あぁ、憂鬱。なのにお酒はいつも美味しいから困ったものだ。
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