917人が本棚に入れています
本棚に追加
プロローグ
『気象海洋研究機構の鮫島 冬慈です。はじめまして、どうぞよろしくお願いします。』
……もしあなたが、2年間想い続けていた相手と偶然再会したとして。
『ほら、名刺交換!』
それがまさかの社会人1年目の名刺交換デビューの日で、上司に急かされながら名刺を取り出す瞬間だったとして。
「あ、、あの、み、三國商船の渦波、櫂です。よろしくお願い致します。」
『頂戴します。』
相手が、やっとかっと名刺を渡した自分にも、バラバラと落としてしまった名刺にも、一切興味を示さなかったとして。
『すみません、まだこの子新人で』
『気にしませんよ』
後ろ手で振られた手が拒絶を示していたとして。
………冷静でいられると思うか?
俺は、無理だった。
ただひたすらに混乱する頭を、乾く喉を、滝のように流れる汗を気づかれないように息をひそめながら、1時間の拷問に耐えるので精一杯だった。
渦波 櫂、23歳。
あの夏の激しい恋と別れから、2年弱が経っていた。
最初のコメントを投稿しよう!