背徳のオメガ 2

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僕は兄を好きになってしまったこと。けれど本当の兄ではないこと。それを僕が知っていることを知らずに、家族はそれを隠し通そうとしてくれたこと。そして僕がオメガだと分かると、アルファの兄はフェロモンからバレないように会ってくれなくなったこと。 「忘れなければならないと分かってました。早く忘れて、別の人を好きにならなければ、と。でも出来なかった。何年経っても兄への思いは消えることはなく、兄もまた、僕には会ってくれない。こんなことを何年続ければいいのだろう。そう思ったとき、気づいたんです。僕が誰かと番にならない限り、兄は僕と会ってくれない、と」 でもそんなことありえない。僕の思いが消えない限り番など持たないし、僕の思いが消える日など、永遠に来ないのだから。 「辛く苦しい思いを抱えながら、それでも笑って続けた茶番は何年も続き、そろそろ限界だと思っていた頃、兄が結婚することになったんです。高校三年生のときでした」 高三がどういう節目なのか説明しなかったけど、特にアダムから訊かれることは無かった。 「本当にもう限界で、実は兄の結婚がなくてもそこから逃げようと思っていたんです。でも兄が結婚すると聞いて、僕は計画を変更したんです。本当はそこから逃げるだけだった。誰にも気づかれず、綺麗に姿を消すだけのはずでした。だけど、僕はもうひとつ、計画を足したんです」 僕はアダムを見た。 この言葉を言ったら、あの優しい目は僕を軽蔑するだろうか。 この優しい香りに、拒絶の香りが混ざるだろうか・・・。 「僕は兄にフェロモントラップを仕掛けたんです。お酒に酔った兄を発情期のフェロモンで誘惑し、誘発剤を使って発情期を起こさせました。僕はオメガの最大の武器をつかってアルファを誘惑したんです」 僕はアダムを見てられなくて下を向いた。そして、震える両手を握りしめ、浴びせられる罵声を待つ。 けれど待っていた声は聞こえず、代わりに優しい香りが強なった。そして僕は、強く抱きしめられる。 「生きていてくれて良かった」 その言葉に身体が震え出す。 僕の、言わなかった計画に気づいた? アダムの包み込む優しい香りに涙が溢れ、嗚咽が喉をせり上がる。 本当は・・・本当はもう辛くて、苦しくて、笑っていることなんて出来なかった。 いつ終わるか分からないこの茶番に、僕の心はもう限界だった。 だから消えてしまおうと思った。泡になった人魚姫のように。 人魚姫は可哀想だと言うけれど、王子が自分ではない姫と幸せになる姿を見なくて済んでよかったと思う。決して叶わない恋ならば、辛い現実など見たくない。だから僕も、泡になって消えよう。幸せな二人を見る前に。 そのために立てた計画だった。
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