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「入社間もないというのにトラブルになった中国企業との間に立って、危うく破談になりそうな契約を上手く取りまとめたと聞いたよ」
そんなこともあったけど、あれは互いにお国柄の違いによる誤解が元のトラブルだったから、こんがらがった糸を解くように、お互いの誤解を解いただけだ。
「君のその柔らかい雰囲気と達者な語学、それに頭の回転の早さゆえの機転でトラブルは解決したと聞いている。君のボスはとても高く評価していて、今回僕が日本に連れて行きたいといった申し出も、最初は断られたんだ」
ボスが断った?
そんな話が出ていたことも知らなかったけど、ボスがそんなに僕を評価してくれていたなんて・・・。
「『いくら日本人だとしても、本人が戻りたいならば希望を出すはずだ。それが出ていないのはまだ戻る気がないのだろう。それでも連れていきたいと言うなら、今よりいい対偶を用意しろ』そう言われてね。本社と交渉していたら少し辞令が遅くなってしまった」
ボスがそんなことを言ってくれていたなんて・・・。
ボスは本当に僕のことを分かっていてくれたんだ。本当はまだ日本には行きたくないことも。
きっとボス的にはこれでアダムを諦めさせようといたのだろうけど、その条件をクリアしてしまったので許可せざるを得なかったのだ。だけど、僕にとってはこの上なくいい条件。きっと僕のために色々考えてくれたのだろう。
おそらく本当に帰りたいと言ったらすぐに呼び戻してくれる手筈も整えていてくれてるはずだ。
「彼の言うとおり、君はまだ日本には戻りたくないのだろうが、僕は君といたいと思ってしまった。僕はこの日のために日本語を学び、日本の文化も調べてきた。僕が本社に戻り、君が僕の秘書になるよりはるかに早い道のりだと思ったからだ」
え?
この日のために?
「日本企業の業績不振はだいぶ前から分かっていたから、社長をすげ替えることも予想出来たからね。そうなればある程度能力が有り、少しでも日本に詳しい者が行くことになるだろう。その時に連れていくのも日本に精通している方がいいに決まっている。よほどのことがない限り秘書は君がつくだろう。だったら僕は意地でも社長になってやろうと、年甲斐もなく頑張ってしまったよ」
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