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僕のために頑張って、本当に社長になるなんて・・・。
簡単に言うけど、それがどんなに大変なことか。
「僕には・・・そんな価値はありません。あなたにそんな強く思われるような人間じゃないんです」
僕が日本で犯した罪。
アダムはそれを知らないから、そんなことを言えるのだ。
「確かに僕は、一度見たきりの君を好き勝手想像してきた。理想を当てはめていたかもしれない。だけど実際に今日君に会って、君は私の想像をはるかに超えて素晴らしい人だと分かった。そんな君を、私はより愛しいと思ったんだ」
違う。
僕はそんな風に思ってもらえるほど・・・。
僕は首を横に振った。
「あなたは知らない。僕がどんなに醜いかを。僕が日本で何をしてここに逃げてきたのか知らないから、そんなことが言えるんです」
胸が痛い。
苦しい。
なのに、アダムはふんわりと笑った。
「何をしたとしても、許されない罪などない。それに誰にだって過ちはある。時には誰かを傷つけることもあるだろうが・・・」
「僕が何をしたのか知ったら、あなただって僕を嫌いにになります!」
僕はアダムの言葉をさえぎった。
誰かを傷つけるなんてなまやさしいものじゃない。
僕の罪は決して許されない。
「嫌いにならないよ。君が何をしてきても。たとえ人を殺してきたと言っても、僕は君を嫌いになったりしない。こんなに優しい君が誰かを殺さなくてはならないくらい辛いことがあったのだと、心が痛くなる」
「そんなの・・・僕は平気で人が殺せる人間かもしれないじゃないですか」
「平気で殺せる人間は、そんな辛い顔をしない」
そう言って手を伸ばし、アダムは僕の涙を拭った。
僕はいつの間にか泣いていた。
「試しに話してみるかい?どんな話でも、僕は嫌いになったりしないよ」
嘘だ。
誰だって僕のしたことを聞いたら僕を軽蔑するだろう。ましてやアルファだ。僕を見るのも嫌になるかもしれない。
これから一緒には仕事をするというのに、そうなったら困る。
だけど・・・。
僕はアダムを見た。そして彼の香りが優しく僕を包む。
この部屋のドアを開けた時から、アダムの香りを感じていた。
甘く優しい香り。
兄のように激しく僕を揺さぶったりしないけれど、アダムの香りは僕の心を落ち着かせてくれる。
「僕は・・・好きになってはいけない人を好きになったんです」
僕はそっと口を開いた。
本当はずっと誰かに聞いてもらいたかったのかもしれない。
ずっと抱えていた罪の意識。一人で抱えるには重すぎて、だけど誰にも言えない僕の罪。
罵られるかもしれない。
だけど、僕はアダムの優しさにすがってみたくなった。
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