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いつの間にか止まった涙を拭いてくれて、アダムはお茶目に笑った。
「泣いている君もきれいだ」
わざと軽く言うアダムに自然と笑みがこぼれる。
「でもやっぱり、笑っている君が一番美しい」
歯が浮くようなセリフを言われて、僕は照れてしまった。
そんなことを言われたことない。
「答えはすぐに出さなくていいよ。それこそ会ったばかりだ。じっくり考えてくれて構わないから。ただその間もこうしてプライベートでも会ってくれるとうれしい。もちろん、エイトと一緒にね」
僕の頭を優しく撫で、そしてぐっすり眠る瑛翔を振り返った。その眼差しがとても優しい。
いいのだろうか、こんな僕がアダムのそばにいても。
一瞬、アダムのパートナーになる、と返事をしそうになった。
だけど、このままじゃだめだ。
兄との関係をちゃんとしてからだ。
僕は逃げてばかりで、兄に何も謝っていない。
だけど・・・。
兄に会うのが怖い。
覚悟はできたと思っていた。
だけど、本当に会おうと思うと怖くてたまらない。
兄の怒りも、罵声も、受け止める自信が僕にはまだなかった
「無理に会うことは無い。会いたくないのは、まだ君の心の準備ができてないからだ。会う覚悟が出来たら、自然とそう思えるものだ。それに神様は君が自分の心に気づかなくても、ちゃんと見ている。だから、焦らなくていい」
まるで僕の心を見透かしたようにそう言うと、アダムはよしよしと僕の頭を撫でた。
「僕は君の答えが出るまでいつまでも待つよ。これでも気は長い方だ。君はゆっくり自分の心と向き合えばいい。僕はその間エイトと遊んでいるから大丈夫だよ」
最後は冗談めかして言ったけど、アダムは本当に瑛翔と遊んでくれるだろう。
やさしいアダム。
早く答えを出したい気持ちと兄に会いたくない気持ちが交錯する。
そんな思いを抱えながら僕達は明日、日本に帰る。
了
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