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その言葉に、この条件に口添えしてくれたのがボスだと分かった。
入社して直ぐにこの人につくことになって、右も左も分からない僕にひとつも怒ることなく根気よく見守ってくれた。プライベートでも子供をひとりで育てている僕を何かと気にかけてくれて、瑛翔と一緒によくホームパーティにも呼んでもらった。
公私共に、僕の良き理解者になってくれた人。
「また戻ってきたかったら希望を出してくれ。直ぐに呼び戻してあげるから」
そう言って笑ったボスに僕は頭を下げた。
おそらく、頭を下げるなんてここではそぐわないだろう。だけどボスは優しく肩を叩いてくれた。
ありがとうございます。
僕は心の中でボスにお礼を言った。
けれど、僕はまだ日本に帰ることに不安を感じる。
家族は僕を探しているだろうか・・・。
それが心配からなのか、それとも憎しみからなのか、そのどちらかだとしても、僕は彼らに探し出されたくはなかった。
自分の犯した罪は分かっている。
両親に対しては不義理をし、兄に対しては人として決してやってはいけない事をした。だけど、僕はそれを後悔などしない。
たとえ罵られても、恨まれても、僕はこの腕の中にあるかけがえのない存在を得ることが出来たのだから。
僕の命。
僕のすべて。
僕はこの子のためならなんでもできる。
この子を守るためなら、どんなことだって・・・。
まだ正式に返事をしていなかった今回の辞令、明日ちゃんと受ける旨を伝えよう。
どんなことが待っていようとも、僕はこの子のために耐える。
どんなことをしても僕の犯した罪は消えないから、僕はそれを一生かけて償う。だから、この子の未来は決して誰にも汚させたりはしない。
僕の罪で生まれたけれど、この子にはなんの罪も汚れもないのだから。
日本で嫌な思いをさせてしまうかもしれない。そして僕のことを嫌いになるかもしれない。
だけど・・・。
「愛してる。誰よりも」
腕の中で眠る愛しいわが子の額に、僕はそっと口付けをした。
アメリカでは子供は早くから自分の部屋を持ち、一人で寝かせるものだ。だけど僕は日本人。同じ寝室の同じベッドで、僕は瑛翔と眠っている。
安心しきったその寝顔が愛おしい。
そんな愛しいわが子の隣に身を寄せ、僕も眠りについた。
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