背徳のオメガ 2

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腕の中の愛しい存在が、僕の首にぎゅっと抱きついて頬に可愛いキスをする。 「ゆいくん、いってきます」 その愛らしい顔をいっぱいに綻ばして元気に言うと、転がるように駆けて行った。 「いってらっしゃい、瑛翔(えいと)」 小さなその背に声を掛けると、瑛翔はくるりと振り向き、零れるばかりの笑顔で僕に手を振った。 「ゆいくんもいってらっしゃい!」 僕も瑛翔に手を振り返して笑顔を送る。 「いってきます、瑛翔」 そうして瑛翔を出迎えた先生に連れられて部屋には入って行くのを見届けると、僕もエレベーターへと向かう。 兄を騙し、逃げるように日本を離れてから6年が経った。 両親には嘘の住所と学校を告げていたけど、僕はちゃんと住むところも学校の手続きも済ませていたので、予定通りその地へ行き、予定通り語学学校に通いながら受験勉強もして、大学へと進学を果たしたのだった。その時にかかった費用は、まだ何も知らないうちに両親に出してもらっていたので、当面のお金の心配はなかったけれど、その後はアメリカの制度をフルに活用して何とか凌いだ。 両親に出してもらったお金は就職してから全て返済した。居場所がバレないように何ヶ所か経由して父親の口座に振り込んだのだけど、何も言わずに一方的に送り付けてしまったから、両親はわけが分からなかったかもしれない。僕からって分かってくれればいいけど、分からなくても何か好きなことに使って欲しいと思う。 僕はエレベーターの上ボタンを押すと、やってきた箱に乗った。 アメリカは性に対して日本よりはるかに進んでいる。オメガに対する差別もなく、能力さえあればどんな職にも就ける。また福祉の面でも充実していて、オメガが一人で子育てをするのになんの不自由もなかった。 大学にも会社にも託児所がついているのは当たり前だし、発情期休暇も当然のように取れる。オメガだからといって変な目で見られることもないし、馬鹿にされることも無い。 日本ではまだまだオメガは何事にも劣っていると思われているけど、実は能力的にはベータとさほど変わらないという研究結果が出ている。ただ、体力的にはやはり劣り、肉体を要するものに関してはベータにも及ばないけど、頭を使ったものでは変わらぬ能力を持つことがわかって来た。だから僕は、大学で必死に勉強して英語の他に中国語も身につけ、今の会社に就職したのだ。 そしてこの会社で僕は秘書課に配属され、日本で言う部長の秘書をしている。
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