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森の中に佇む木
あぁ~僕はなんなのか、、
元々この場所にいたのか、、
この場所でどれ程の時間を過ごしてきたんだろうか、、
分からない、、分からない、、
記憶が、、
森の中に佇むそんな悲しげな木の前に1人の女と小さな子供が辿り着いた。
その女は悲しげな顔に目には涙を浮かべ、その木を見つめ微笑んでいた。
その隣には無邪気に動く小さな男の子がいた。
あぁ~
何だか懐かしい。
君は、、僕の、、大切な人、、
君かい?
記憶が少し甦ってくるようだ。
まだ微かに僕は覚えていたのか、、
思い出せる、、
結愛なのか?
そこに居る男の子は誰なんだ?
「結人、こっちにいらっしゃい。パパに会いに来たのよ。挨拶して。」
「ママ~、パパはどこ?」
「ここよ、ほらっ触って。ゴツゴツしているけど、確かにパパなのよ。」
結人は頭を傾げながら何も言わずに、そのゴツゴツした大きな木を見上げていた。
「人志さん、やっと見つけたわ。ここに来るのが遅くなってしまって、ごめんなさい。貴方の息子よ。貴方の名前の人という字と私の結ぶという字を合わせて、結人という名前を付けたわ。大切に立派に育てるわ。安心してね。」
そうだったのか。僕に息子が出来たなんて。
嬉しいよ。結愛、ありがとう。
そう言う様に大きく木の枝を揺らした。
もう僕は喋る事が出来ない。
精一杯、木の枝を揺らす事しか出来ないんだ。
「人志さん、喜んでくれているのね。私も嬉しいわ。また会いに来るわね。」
結愛は、そう言って頬に伝った涙を拭う。
「ママ~どうしたの?泣いてるの?」
「パパに会えて嬉しかったのよ。さあ、もう帰りましょう。暗くなると帰りが大変だわ。パパに挨拶しよう。」
「うん。パパ、またね。」
「人志さん、また来るわね。」
2人はそのゴツゴツとした木に触れながら話すと、帰って行った。
結愛、結人、またな。
僕は、枝や葉になってしまった腕を一生懸命振ると、その悲しげな結愛の後ろ姿とその隣の小さな可愛い息子の後ろ姿をじっと見つめた。
元気でな、、
またな、、
もう涙さえ出せない。
いつしか、結愛と出会った、あの時の大切な思い出も全て忘れてしまうのか、、
僕は忘れたくない、、
初めて会った彼女は誰よりもキラキラ輝いていた。
僕には、そう見えていた、、
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