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「いやー、ネコをつかまえてくれたのが兎本で助かったよー。ほんとさんきゅーな」
男の子――猪沢大和くんが、わたしのとなりにならんで来た道を戻りながら言う。
犬飼くん家を離れてすぐ、
「引っ越してきたばっかだろ? こっからおまえ、ひとりで家帰れる?」
って猪沢くんに聞かれて、わたしは真っ青になった。
だって、全然知らない場所だったんだもん!
夏休みやお正月には毎年おじいちゃん家にあそびに来てはいたけれど、さすがにひとりでこんなに遠くまで来たことなんて一度もなかった。
だけど――そっか。わたし、これからこの街で暮らすんだ。
今この瞬間まで、わたしはなんとなくよそ者みたいな気持ちでいたけれど、今さらながら、そんなことを強く実感した。
結局、さっきネコを見つけた場所まで猪沢くんがいっしょに行ってくれることになった。
「へぇ~、じーちゃん家がこのへんなんだ。じゃあ、もっと小さいときにもひょっとしたらどこかですれ違ってたりしてな!」
そう言って、猪沢くんがわたしに向かってニカッと笑った。
その猪沢くんの笑顔を見ていたら、ここがどこだかわからないっていう不安はいつの間にか吹き飛んでいて。また明日学校に行ったら猪沢くんに会えるんだって思ったら、学校に行くのがちょっとだけ楽しみになった。
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