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「待って、待って! おれ、さっきこいつに引っかかれたばっかなんだって」
そう言って男の子がTシャツの袖をまくり上げると、真っ赤な引っかき傷が、手首のあたりからひじまでずっと続いていた。
うわぁっ、痛そう……。
「ねえ、おまえ、こんなことしちゃダメでしょ」
こっそりデブネコの耳元でささやくと、
『こいつ、抱くの超ヘタクソなんだよ』
ふんっ、とそっぽを向いてデブネコが悪態をつく。
もう、しょうがないなぁ。
「わかったよ」
「よかったぁ。さんきゅーな!」
わたしがしぶしぶそう言うと、心底ホッとした様子で男の子がわたしに笑顔を向けた。
そっか。こんなに喜んでくれるんだったら……引き受けてあげてよかったな。
今日は一日中ずーっと浮かない気分だったけど、最後の最後にちょっとだけウキウキした気持ちになれて、気づいたらわたしも口元がほころんでいた。
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