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「う~も~と~さんっ」
やさし気な呼びかけが、逆にこわいんですけど。
「な……なに?」
「ねえ、今の聞いてたんでしょ? どうなの、ほんとのとこ」
おそるおそる顔を上げると、ひとりの女の子がわたしにぐいっと顔を近づけて聞いてきた。
たしか名前は馬渡梨々香ちゃん。
たぶん、この子がこのクラスの女の子のボスなんだろうな。
ふわっとしたロングヘアに、ぷるんっとうるんだくちびる、ほんのりピンク色のほっぺた。女のわたしから見ても、すっごい美少女。
だけど、かわいらしい見た目に反して、有無を言わさない口調が少し……いやかなりこわい。
「えっと……そのYOTって……なに?」
わたしは、引きつった笑みをうかべながらたずねた。
「えぇっ、兎本さん、ほんとに知らないのぉ? YOTっていうのはね、『山羊山小お助け隊』の略称で、なにか困ったことがあったら児童会室前のポストに依頼書を入れておくと、解決してくれるんだよ!」
「へ、へぇ~。そうなんだぁ」
「児童会の中の組織なんだけどね、その中心になってるのが副会長の猪沢大和くん。ちなみに、児童会長の白鳥一哉くんはYOTの正式メンバーではないんだけど、アドバイザーっていうの? 大和くんが困ってるときに助言したりしてるんだって」
ああ、なるほど! 今の説明を聞いて、いろいろ納得。
わたしが昨日猪沢くんといっしょにいたから、ヘンな誤解をされたんだ。
そして、たぶんだけど梨々香ちゃんは「一哉くん」のことが好きなんだ。
「わたし、そのYOTとは全然関係ないから! 昨日はたまたま犬飼くんとこのネコがわたしになついてたから、お手伝いを頼まれただけなんだ」
「ふぅん、そうなんだぁ」
腕組みした梨々香ちゃんが、まだ怪しむようにじとーっとした目でわたしのことを見つめてくる。
梨々香ちゃんみたいな子に目をつけられるようなことは絶対にしちゃダメだ。
わたしの直感が、けたたましく警告音を鳴らした。
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