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「ねぇ、覚えてる?」
忘れっぽいあなた。
つきあって一年目の記念日も、私の誕生日どころか、自分の誕生日も忘れていたあなた。
それでも「何を?」って落ち着いたように言いながら、目線を左上の方に向けて必死に思い出そうとしていたあなた。困った表情を必死に隠して、思い出そうとする姿が好きだった。
結局思い出せないあなたに、今日はね、と教えてあげるのが好きだったのは、言ったことがなかったかもしれない。でもね、そこは私だけが知っていればいいと思ったの。それに、困っている姿が好き、なんて。あなたは怒るかもしれないでしょう?
「忘れててごめんね」
「しょうがないわね」
眉を下げて謝るあなたに、少しだけツンとそっけなく答えたのは、拗ねていたわけじゃないのよ。そのあと、私のご機嫌とりをしようとオロオロするあなたが、見たかっただけよ。
意地の悪い女でしょう?
あなたは、私がそんな意地の悪い女だってことを知らなかったわよね。それとも、誰かが教えちゃったの?
「きみは、だれ?」
だから、そんな意地の悪いことを言うの?
真白い部屋で、ベッドの脇に立つ私を見上げるあなた。視線は左上の方に向かず、ただ私をまっすぐに見ている。
いつものように教えてあげられないなんてこと、初めてよ。
教えてあげるわ。いつものように。私のこと、あなたのこと。初デートのこと、誕生日を祝いあったこと、指輪をくれたこと。
「……きみも、ぼくの知り合いなんだね」
ーー忘れて、ごめんね。
いつものように、「しょうがないわね」ってそっけなく言ってあげる。
だから、今だけは許してちょうだい。きっと、声を出したら情けなく震えているの。
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