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「私が過去、どんな罪を犯したか。これに関しては、犯人を指摘していく過程で明らかになりますので、しばらくお待ちください。ただ、これは私にも無関係な事件ではなかった。いや、私のせいで引き起こされてしまったと言っても過言ではないのです」
傾きかけた身体を立て直し、緒方晴人はじっと自分に注目する人々を見つめる。この中に、自らの因縁を突き付ける奴がいるのだ。そのことを、ゆっくりと噛みしめるように全員の顔を確認した。
しかし、その中には見知った人物、晴人が司法取引に応じたことで、監視役なんていう面倒な役目を押し付けられてしまった哀れな刑事、菊池愛海の姿もある。
愛海は大丈夫なのかと言いたげな、はらはらした面持ちをしていて、一瞬、いつものようにからかってやりたくなったが、今はそんなことをしている場合ではない。
ああ、ここまで、どれだけの時間が流れただろうか。
司法取引に応じたから自分の罪はなくなった。そんな呑気なことを考えたことはないが、ここでようやく、宗像出雲は過去のものになるのだという実感があった。
そして、愛海の小言を、今後は真面目に拝聴しようと、そんな殊勝な気持ちにもなる。
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