束の間

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束の間

「ねぇ、あんた覚えてる?」  彼女とはじめて出会ったときにかけられた言葉だ。  短気で手が早く、自己中心的。  でも大切なことを忘れていた僕に、  彼女が与えてくれたものがある。  ここから書きはじめてみよう、  『夢』を取り戻すための新しい物語を。  僕は校門の半分閉ざされた門扉(もんぴ)の横を通り過ぎると、ただ黙々と駅に向かって歩いていた。  下り坂の歩道からは、光の(まばた)きがきらめく青い海が一望できたが、せっかくの眺望も今の僕にとっては、駅に貼られた電子ポスターと変わらない。  困ったことになっている。  僕は(うつむ)きながらホワイトホンを眺めていた。液晶の白い画面にはカーソルが点滅していたが、つるりとしたガラスの上を指先はウロウロとするばかり。 「だめだ……何も打てない」  ふうっとため息をつくと、ホワイトホンをポケットにしまいこんだ。  踏切の手前まで来ると、目の前を線路上に浮いたリニアモーターカーが音もなく通り過ぎていった。
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