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「……太輔?」
昼の十二時過ぎ。教員室に入った太輔は名を呼ばれて顔を上げた。
「小平?」
「びっくりした。何でいるの?」
「何でって……。やることあるからに決まってるだろ」
当然のように聞いてくる小平に「はぁ」と息を吐いて、太輔は自身の席に着いた。
「いや、今日休みなのに出て来るの珍しいと思っただけなんだけど」
少々不機嫌な太輔に、小平は引き気味にそう返答した。太輔がチラリと小平の机を見ると本が積み上がっているのが目に入る。
「何してたの?」
「全学年の教科書見てたんだよ。もしかしたら、他にも教えられることがあるかなと思って。これは近くの高等小学校の先生から借りた五年生の教科書」
小平はヒラヒラと太輔に教科書を振って見せ、途中まで読んでいたであろう頁を机に開いた。
「ほら、生徒の中には他のことも知りたいって思っている子も多いからさ。そりゃ無断でやる訳じゃないし、俺の中で今一度知識として入れたいだけなんだよ。教師になったからって、勉強しない訳にはいかないんだから」
見た目、不真面目そうに見える小平だが教師への思いは誰よりも強いことを太輔は知っている。人以上に気遣いも出来て、生徒の為に──と思いも強い。それに太輔は何度も救われてきていた。
「小平はいつまでいるの?」
思いは小平には閉まっておくのが一番だと、太輔は口には出さず教科書に目線を落とした。
「いつまでとかは考えてないけど、とりあえず気の済むまでかな……。あ、そうだ。太輔ご飯食べた?」
「え?……いや、まだだけど」
太輔が小平の表情を見ると、二ッと笑みを浮かべ頬杖をついていた。
「じゃあ、先に食べるか。腹が減っては戦が出来ぬ、だろ?」
「いや、戦って……。言ってること意味分からないから!」
しかし太輔の言葉を無視し小平は立ち上がると「行くぞ、ほら」と太輔の腕を引っ張って立ち上がらせた。
「え、ちょっと。ほんとに行くの」
「何度も聞くなって、行くぞ」
小平が先を歩き始めたのを見て、太輔は盛大に溜息を吐くしかなく、財布を鞄から抜き取ると追って教員室を出たのだった。
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