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密やかな週末
「ねぇ。後ろのファスナー上げて」
さっきまで見ていた不埒な夢を見透かすように、夏美が素っ気なく、俺が横になったダブルベッドの端に腰を掛けて、そう言った。
夢に出てきた見知らぬ既婚女性の体温が今も肌に残る、妙にリアルな夢。
だが、俺にそんな相手などいない。
そもそも、人妻は恋愛対象外。
スリルを求めるような刺激はいらない。
平穏な日々さえあればいい。
「たまたま好きになった人が既婚者だった」なんて、ただの言い訳じゃないか。
誰かを悲しませる恋愛は、花火と同じ。
ぱっと寂しい心に咲いて呆気なく散るだけ。
同じ花なら心に生きた花を咲かせたい。
一時の感情で浮気するくらいなら、いっそのこと、結婚なんてしなければいいのに。
だから、俺は決して誰かを悲しませるような結婚などしないと、心に決めていた。
――うちの親みたいな。
カナリア色のワンピースの腰まであるファスナーが、大きく口を開けている。
その隙間から覗いたネイビーの下着が、夏美の陶器のような肌をより一層白く際立たせ、外してくれとささやく。その声に従うかのごとく、ブラのホックに手をかける。
「そっちじゃないってば、健吾」
夏美は「もう」と少し怒るフリをして、甘えた声を出す。俺はこの顔が好きだ。
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